Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

それぞれのクリスマス

“リンギオ”鳳翔 刻のクリスマス
「お疲れ様です。鳳翔巡査」

「おう」

パトロールから戻ってきた鳳翔をバディであるあかりは、駐車場で出迎えた。

そのまま直帰されないように監視するためにわざわざここで待っていたのである。

「早速、たまっている書類を片付けてください」

「帰ってきてすぐに小言かよ」

鳳翔は、めんどくさそうに頭を掻いた。

「それに今日は、クリスマスだぜ。デスクワークは明日でも出来るがクリスマスは今日しかないんだぜ、お嬢ちゃん」
「言ってる事は、ごもっともですがこうなったのは日ごろデスクワークをまったくしないご自身の責任だということをお忘れなく。
それに何かクリスマスに特別なご予定でも?」

あかりがどことなく棘のある口調で告げる。

「七面鳥を食う」

世界の常識を告げるように鳳翔が堂々と言い放った。

「・・・それだけですか?」

あかりは、仕事より食い気が優先している鳳翔に対してあきれた表情を見せた。

「今日しか食う機会ないからな。七面鳥」

鳳翔は、もはや七面鳥を食べることしか頭にないようである。

「ケーキは、食べないんですか?」

「もちろん七面鳥食べた後に食う」

あかりは、皮肉のつもりで言ったのだが鳳翔には通じなかったようである。

頭痛をこらえるようにあかりは、額を手で押さえる。

「とりあえず仕事が終わったら好きなだけ食べてください。行きますよ。」

あかりは、鳳翔の腕を掴むと強引に引っ張りオフィスに向かって歩き始めた。

観念したのか鳳翔は、仕方なさそうにあかりのなすがままに引っ張られていった。

来栖 優のクリスマス


街がクリスマスの喧騒に包まれる中、来栖探偵事務所は、ひっそりとしていた。

「マスター。街は、クリスマスとかでお祭り騒ぎですが」

「そうだな」

探偵事務所の主である来栖の隣には、西洋鎧に身を包み砂金をまぶしたように輝く髪を青いリボンで後ろにまとめた
凛々しい顔の小柄な女性が立っている。
女性は、来栖に与えられたハースニールという聖剣が人間の姿をとったものである。

マスターである来栖は、机に力なく頭を乗せていた。

その顔は、どことなくやつれ疲れがにじみ出ている。

「マスターは、騒がないのですか?」

「・・・金がない」

疲れきった力ない声で来栖が答える。

「サンタクロースという人物に頼めばプレゼントがもらえるそうですが?」

「そりゃ子供だけだ。大人は対象外だ」

「ケーキや七面鳥は食べないのですか?」

「・・・明日、半額になってたらな」

「明日では意味がないのでは?」

「意味より金だ。世間に振り回されて浪費するとあっという間に金が尽きる」

「マスター。ようやく私も貧乏の辛さがわかったような気がします」

どことなく悲しそうな表情でハースニールが言った。

「そうか。ようやくわかってくれたか」

来栖は、力なく何度も頷いた。
外からはそんな二人を哀れむようにジングルベルのテーマが響いてきた。

“アルテミス”叢雲 空&“スクデット”アズーリ のクリスマス
クリスマス用にラッピングされた箱を片手に叢雲 空は、レストラン カンピオーネを訪れた。
叢雲をレストランの支配人であるトトが柔らかな微笑を浮かべて出迎えてくれた。

「トト。アズは、いる?」

「スクデットをお探しですか? お嬢様」

「うん。今日、クリスマスだからプレゼントを渡そうと思って」

「それは、それは。美しい女性よりプレゼントを贈ってもらえるとはイタリアの男にとって何よりのことです」

トトは、我が事のようにうれしそうに微笑んだ。

叢雲は、それを聞いて頬を赤く染めた。

「そうなの? ちょっと恥ずかしいな」

「では、私からのクリスマスプレゼントをお嬢様に。これをどうぞ」

トトは、懐より取り出したチケットを叢雲に差し出した。

チケットは、マキシマムアリーナで行われるオペラのものだ。

「スクデットならば今日は、オペラを見に行っています。このチケットをどうぞ。

スクデットの隣の席です」

「ありがとう。トト」

叢雲は、感謝の意味を込めてトトの頬に軽く口付けするとチケットを受け取り急いで出口に向かう。

「お待ちを。お嬢様」

急いで出て行こうとする叢雲をトトは、呼び止めた。
叢雲が振り返りトトの方を向く。

「奥の個室へどうぞ。衣装もご用意してあります」

「え? 変かな? この格好?」

叢雲は、両手を広げていつも着ている自分のスーツを見る。

「いつもならばその姿でもお嬢様は、十分美しいのですがなんといっても今宵はクリスマス。

クリスマスにはクリスマスのための衣装というものがございます」

「ふーん。じゃ、トトに任せるよ」

「かしこまりました。お嬢様。」

姫に仕える老執事の如くトトは、恭しく頭を下げた。


劇場の席にタキシードを着こなしたアズーリが座っている。

視線は、まだ幕が上がってない舞台に注がれている。

今日ばかりは、いつもかけているミラーシェードは、外している。

いつもはミラーシェードの奥に隠れている空のように青い瞳が今日は、その姿を現している。

「お隣よろしいですか?」

横から声をかけられアズーリは、視線を移す。

そこには、胸元と背中が大きく開いた情熱的なデザインの赤いドレスを纏った叢雲がいた。
アズーリの視線が自分に向けられると叢雲は、恥ずかしそうに俯いた。

「に、似合わないかな?トトが薦めてくれたんだけど・・・」

「いや、そんなことはない」

アズーリは、立ち上がると貴婦人に向かっているかのように丁寧に手を叢雲の方に差し出す。

叢雲は、ゆっくりとアズーリの手に自分の手を重ねる。

アズーリは、叢雲を席へとエスコートする。

叢雲が席に着くとアズーリも席へと戻った。

「あ、そうだ。アズ、これプレゼント」

叢雲は、ハンドバックからラッピングされた箱を取り出すとアズーリに渡した。

「これは?」

「クリスマスプレゼント。アズは、マフラー持ってるから青い手袋にしたんだよ」

「ありがとう。大切に使わせてもら。」

アズーリは、微笑を浮かべた。

「ところでお姫様。ディナーの予定はありますか?」

「え? ないけど」

うって変わったアズーリの丁寧な口調に叢雲が戸惑った表情を浮かべる。

「よろしければこのオペラが終わった後、私とご一緒にいかがですか?」

「うん。ぜひご一緒に。でもその・・・何か恥ずかしいな。アズのその口調」

「今日は、クリスマス。特別な日だ。美しい女性にとって素晴らしい日であるようと
願いそうなるように努力するのがイタリアの男の勤めさ」

アズーリは、そう言うと優しく微笑んだ。

「うん。ありがとう。うれしいよ」

叢雲は、頬を赤く染めてうれしそうに微笑をアズーリに返した。
そしてブザーが鳴り舞台の幕が上がった。

“ミス・フォーチュン”フェリシア・ロムのクリスマス
アテナパレス。トーキョーN◎VA屈指のカジノ。

クリスマスであってもギャンブルに熱狂する人の数は減ることはない。

いや、それどころかその数はいつもより多いようにすら感じられる。

まるでここにサンタクロースのプレゼントが落ちていると信じているかのように。

ファリシアは、三人の男達と卓を一緒に囲んでいる。

「そういえば今日は、クリスマスだったわねぇ」

今、思い出したとでも言うような何気ない口調だった。

フェリシアは、牌をつもるとすらりと伸びた美しい指でその感触を確かめる。

そして自分の前にその牌を置くと自分の手牌を全て倒す。

フェリシアの倒した手牌は、全て赤く染まっていた。

「こんなところにサンタクロースがいるなんてね。ツモ。萬子の九連宝塔。ダブル役萬よ。
きっちりとクリスマスプレゼント役萬ご祝儀置いていってもらうわよ。
サンタクロースさん達?」

“ボランチ”日向ひよりのクリスマス
企業戦士に休日はない。

それが例えクリスマスであっても。

後方処理課課長室のオフィスで課長である早川美沙と課長補佐である日向ひよりは、

たまりにたまった書類の処理に追われていた。

「クリスマスなのに女二人が書類の処理でクリスマスを過ごすって・・・寂しいですね」

トロンのキーボードを叩きながらひよりが寂しそうに呟いた。

「そういうことは言わないの。口を動かす暇ががあったら手を動かす」

美沙もキーボードを叩きながら答える。

「は〜い」

ひよりは、返事をすると書類の処理に集中する。

その時、課長室のドアがノックされた。

ひよりが立ち上がりドアへ向かう。

ドアの外にいる人物を何かやりとりすると包みを片手にひよりは、うれしそう小走りで席へと戻ってきた。

「課長。一息入れませんか?ケーキも届きましたし」

ひよりは、デスクの上に包みを置き広げてみせる。

中には、小さなクリスマスケーキが入っていた。

「そうね。そうしましょうか」

美沙は、キーボードを叩く手を止め大きく伸びをする。

ひよりは、コーヒーと皿を用意するとケーキを切り分けた。

二人は、しばらくの間だけ業務を忘れクリスマスの雰囲気を楽しんだ。

「今ごろ他の班のみなさんも喜んでくれてますかねぇ」

「全部の班に配ったの? クリスマスケーキ」

「はい。みんな忙しいのは一緒ですからせめてクリスマスケーキでも食べてちょっと息抜きしてもらおうかなぁと思いまして」

こういう気配りができるところが彼女のいいところだ。

ボランチと呼ばれるだけのことはある。

そう思いながら美沙はあることに気がついた。

「よくそんなお金あったわね。自費?」

後方処理課の全三班の班員は、相当の人数になる。

それだけ分のケーキとなれば料金も相当かかったはずだ。

「ええーと、千早系列のお店で頼んだので領収書貰ってあります。経費で落ちませんか?」

困った表情で申し訳なさそうにおずおずとひよりは、美沙の前に領収書を差し出す。

美沙が疲れたようにため息をつく。

「これが私へのクリスマスプレセントってわけ?」

「申し訳ありません。課長」

慌ててひよりが頭を下げる。

ひよりの様子を見て美沙が仕方ないと言いたそうに肩をすくめる。

「いいわ、経費で落としましょう。士気もあがっただろうし。さ、食べ終わったらもう一頑張りよ」

「はい!」

うれしそうに返事をするとひよりは、ケーキを一口、口に運んだ。

それ は、今まで食べたどんなクリスマスケーキよりもおいしいように思えた。

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