Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン2 盾〜スクデット〜

「その後は、知っての通りです。評議会は、アズーリの兄であるロベルト・バレージの

手によって解散させられアズーリが評議会からスクデットの承認を受けることは無かった。

そしてその後、このN◎VAへとやってきた」

トトがクリスティアンとアンジェリカにアズーリの過去を話し終えた。

二人は、何かを考え込むように口を閉じている。

「あの封筒の剣の紋章は、スパーダのもの?」

クリスティアンが沈黙を破る。トトが無言で頷く。

「ええ。スパーダのその後の消息は、不明です。今、調べているところですが」

「私、手伝う」

アンジェリカが強い口調でトトに訴える。

トトが驚いた表情でアンジェリカを見つめる。

彼女がここまで強い感情を表したのは義父となって以来初めてだ。

「私は、封筒を持っていた女性の顔を覚えているわ。きっと力になれる」

トトを見上げ瞳に強い光を宿してアンジェリカが訴え続ける。

トトが根負けしたように肩を落とす。

「仕方ありませんね。女性に助けを請うのはイタリアの男として気が引けますが今回は

それしか手がなさそうです。アンジェ、手伝ってくれますか?」

トトが優しくアンジェリカに告げる。

アンジェリカがこくんと頷く。

「僕も手伝う!」

クリスティアンが仲間はずれにされたのを怒るように大きな声で言った。

「僕は、アンジェといつも一緒にいるとあの時、言ったんだ。

だから僕も一緒に手伝う」

その言葉を聞きアンジェリカが俯きトトが息子の成長を喜ぶ父親のように微笑む。

「いいでしょう。クリス。君も手伝いなさい」

クリスティアンが飛び上がって喜ぶ。

その頭をトトが優しく撫でるといたずらを弟に教える兄のように声を潜めて言った。

「クリス。あのように愛に満ちた言葉は、女性と自分の二人しかいない時に言うものです。

それがいい男になるための条件です」

その言葉にようやくアンジェリカが何故、俯いているのかわかったクリスティアンは、

自分も恥かしそうに俯いた。



昨日と同じ時刻にアズーリは、カンピオーネにやって来た。

今日は、カウンターには座らずにカンピオーネの奥にある個人商談用の個室に入っていく。

防音、盗聴、ハッキングに対して全て対策がとられたこの部屋は、カンピオーネの腕利き

のみならず企業の重役達にも愛用されている。

アズーリが部屋に入るとしばらくしてトトが部屋に入ってきた。

淡々と調べ上げた情報をアズーリに告げる。

「調べは、つきました。スパーダは、二年前に病で死んでいます。

今のスパーダは、その後継者です。女性で名前は、」

「アーシェラ・ヴィエリ」

アズーリがトトの言葉を先取りする。トトが驚いたように目を見開く。

「知っていたのですか?スクデット」

「いや。そんな気がしただけだ」

一旦、言葉を切りアズーリが天井を見る。しばらくしてから顔をトトの方に向け言葉を続ける。

「スクデットの名と紋章を引き継ぐ時、スパーダの住む館に行った事がある。

彼女もその館にいた。その時は、普通の女性だった。ただ一つの気にかかることを除いて」

「気にかかること?」

アズーリが自分の首に巻かれているマフラーを触れる。

「彼女は、俺のマフラーが曲がっていたのを直してくれた」

「ほう」

トトが面白そうに笑う。そしてからかうように言った。

「そういうことですか?スクデット」

「いや、違う」

アズーリがトトの言葉に対し首を振り真剣な口調で言葉を続ける。

「俺は、首に触れられてから彼女の行動に気がついた。

彼女がそのつもりなら俺は、あの時、首を刎ねられ死んでいただろう。

そしてスパーダと立ち合ってから彼女が俺の首に触れた動きがスパーダのものと同じだと気がついた。
その後、スパーダに関する話は、何も聞かなくなった。

だから俺は、あの時は自分が油断していただけだったと思っていた。

だが昨日、封筒を見た時から彼女がスパーダではないかと思っていた」

それを聞きトトが再び情報を告げる。

「そのアーシェラ・ヴィエリですが今は、バレージ・ファミリーの子飼いとなっております。N◎VAでは、まだ仕事はしていません。ですがローマの方ではす でに何件か仕事をこなしているようです」

バレージ・ファミリーは、アズーリの兄、ロベルト・バレージの組織だ。

評議会の一件からロベルトとアズーリと敵対関係にある。

そのバレージ・ファミリーの子飼いとなったスパーダの手紙は、罠の可能性が高い。

「それでも行くと言うのですか?スクデット。」

「ああ。スパーダの名を継いだ者がスクデットと話がしたいと正式に言ってきているのだ。

断るわけには行かない」

「スクデット。もし罠だったら」

「スクデッドが名誉を汚さないようにスパーダもその名に賭けて名誉を汚さないだろう」

それだけ言うとアズーリは立ち上がり部屋から出ておった。

部屋の前では、アンジェリカとクリスティアンが不安そうな表情で立っていた。

「アズーリ」

二人がアズーリを不安そうに見上げる。アズーリが二人の頭を優しく撫でる。

そしてそのままカンピオーネより出て行った。

その逞しい背中を二人は、いつまでも見つめていた。

 夜の公園は、人影は無く静寂に包まれている。

月光が公園で向かい合う男女の姿を照らし出す。

男は、アズーリ。そして女は、アーシェラ・ヴィエリ。

すらりとした長身で細身の体を先代のスパーダと同じく黒く赤いコートで包んでいる。

腰には、先代スパーダが使っていた物と同じ長剣を帯びている。

前回と同じくしなやかそうな長い黄金の髪をリボンで結びまとめている。

伏せ目がちな黒い瞳にすっきりとした鼻筋も前に会った時とまったく変わらない。

違うのは、その黒い瞳の奥に先代スパーダと同じく虚無が宿っている。

儚げだった印象が今にも消えそうな印象に変わっている。

それは、まるで人に死を告げるという嘆きの精のようだ。

「久しぶりだな」

「ええ、お久しぶり。今日は、マフラーは、曲がってないわね」

アーシェラが静かに微笑む。前に会った時と同じ微笑みのはずなのにどこかその微笑みは、見る者に痛々しい印象を与える。

「君がスパーダの後継者だとは知らなかった」

「ええ。父も私に技の全てを伝授したけどスパーダの名を継がせるつもりはなかったわ。

私も継ぐつもりもなかった。日の当たらない世界で生きるのは父の代で終わりだった」

「ならばなぜ?」

二人を分かつように二人の間に冷たい風が駆け抜けていく。

アズーリの疑問の言葉に対しアーシェラが指をすっと伸ばしアズーリを指差す。

それは、嘆きの精が死を宣告するようだった。

「あなたよ。スクデット」

「俺だと?」

アズーリがその言葉に眉をしかめる。

「ええ。あなたよ。父は、あなたと戦ってから変わった。

そして最後は、満足そうに笑って死んだわ。

血塗られた人生を歩んだ筈なのに一片の後悔もなかったような表情だった。

そして思ったわ」

アーシェラがその光景を思い出すように目を閉じ自分の胸に手を当てる。

「私も死ぬ時はあんな風に満足に笑って死にたいと。

だからスパーダの名を継ぎ父と同じように生きる。

そして満足そうに笑って死ぬの。それが私の望み」

アーシェラが笑う。アズーリには、それが嘆きの精のように空虚な笑いに見えた。

「それが望みか?スパーダ」

「ええ。それが私の望みよ。スクデット」

アズーリが強い意志の光を宿しアーシェラを見る。

そして首に巻いたマフラーを握り締める。

「ならばその運命に抗わせてもらおう」

ゆらりとアーシェラの体が陽炎のように消える。

そして突然、アーシェラがすっとアズーリの目の前に現れる。銀光が闇に切り裂き閃く。

アズーリが手にしたマフラーでその銀光を弾く。

アーシェラが手に持った長剣を鞘に納める。

「今日は、挨拶だけよ。スクデット」

そしてアズーリの持っているマフラーに目をやる。

「いいマフラーね。どんな糸で編まれているのか分からないけど」

「断てぬ運命の糸を永遠に変わらぬ誓いと名誉で編んだものだ」

アズーリが重々しく告げる。その響きには真実の重さがある。

アーシェラがアズーリのマフラーをまぶしそうに見つめ静かに微笑む。

そしてアズーリに背を向け公園の出口に向かって歩き出す。

「また、会いましょう。次は、お互いの依頼が重なった時に」

そのまま二度とアズーリの方を振り向かずに歩いていった。

さながらそれはイタリア神話のヤヌスの相反する顔のようだった。

お互いの存在を知りつつ交わらぬ運命のようだった。

ヤヌスの神殿は、二つの門があるという。

平和の時は両方の門は閉ざされており戦争の時にはどちらかが開かれ

そこから軍が出撃していくという。

二つの門は、勝利と敗北を暗示しているという。

ならば今、彼女が出て行った門は、どちらを暗示するのだろうか?

勝利なのだろうか? それとも敗北なのだろうか?

アズーリが首にその青いマフラーを巻きつける。

そしてゆっくりとアーシェラとは反対側に向かって歩き出す。

胸の紋章と共に引き継いだ言葉を思い出すように。



スクデットがスパーダの部屋に訪れる。

スパーダの右肩には、白い包帯が巻かれておりその身をベッドに横たえている。

スパーダがスクデッドの胸を見る。

「済んだようだな」

スパーダの言葉にスクデッドが頷く。近くにあった椅子に腰掛ける。

二人の顔には、仕事をやり遂げたような満足感が見て取れた。

「感謝する。スパーダ」

スクデッドがスパーダに頭を下げる。

それを見てスパーダが昔を思い出すように目を細め苦笑する。

「最後にお主とこんな風に話したのはいつ以来だ?」

「忘れたよ。そんな昔のことは」

再び沈黙が流れる。スパーダが自分の体にかけられている赤いコートの胸の紋章を撫でる。

「スパーダは、わしの代で終わりだ」

その言葉にスクデッドが意外そうな顔でスパーダの顔を見る。

「娘に全ての技を伝授したと聞いたが?」

「あれにわしのような人生は、送らせたくない。日の当たるところで生きて欲しい。

技は、せがまれて教えたものだ。娘の才能がわしを凌駕しておったため全てを吸収されてしまった。
娘も一生、使うことはないだろう。あやつ自身がそう言っている」

「惜しいな。あの技があれば何人もの人を救うことができるだろうに」

スパーダがその言葉に苦笑する。

「剣は、抜けば人を殺すものだ。救うことなどできん。盾とは、永遠に交わることはない。

お主、知っておるか? 古い中国にこんな話があるそうだ。

ある所に何でも貫くの矛と絶対に砕かれることが無い盾を売る商人がいた。

ある人が商人に言った。その矛と盾をぶつけたらどうなるのか? と。

商人は、何も答えることはできなかった。人、これを矛盾と言う。

お主、どう思う。この答えは、わしとお主によって出ていると思わんか?」

スクデットが遠くを眺めるような目で答える。

「互いを傷つけ何も得るものがない、か?」

「そうよ。わしの娘にだけは、そのような目に会って欲しくない。

仕事によって友と戦うなど何も得るものはない」

スクデッドが苦笑する。

「スパーダ。お前、見かけに寄らず娘思いなんだな」

「独身を貫いたお主にはわからんだろうな」

自慢するような口調でスパーダが告げる。

「そして今日、更に息子ができたような気分だ。

剣を振りあの者に何かを残すことができたと思う。満足だ」

満足そうにスパーダが笑う。スクデットも満足そうに笑う。

「アズーリは、私の後継者だ。だが私のような過ちは、犯さないだろう」

「そうだな。スパーダは、もういない。そして剣と盾は、ぶつかることはなく矛盾の答えを出すことも無い。
それは誰にとっても幸福なことだろうな」

スクデッドが立ち上がる。そしてその手に赤ワインとワイングラスを二つ持ち戻ってきた。

一つをスパーダに渡し中にワインを注ぐ。そして自分のグラスにも赤ワインを注いだ。

お互いのグラスを合わせる。澄んだ音が部屋の中に響いた。

それは、剣と盾が触れ合った音に似ていた。

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