Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン2 ボランチと闘将

景色が一変した。全てが高速で後ろに流れていく。

時折、体が左右に振られる。シートベルトをしているおかげで体が飛ばされることはない。

シートベルトをしてなかったら・・・ひよりは、そう思うとぞっとした。

走り出したころは、首ふり人形のように首も左右に振られた。

今は、顎を引っ込めるようにし奥歯を噛み締め首が振られないように耐えている。

ひよりの目の前に壁が迫り悲鳴を上げ恐怖で思わず眼をつむる。

それは、壁ではなく前を走るトラックの荷台だ。

ジャンルカは、ハンドルを左に切りトラックを避ける。

その目前に再び行く手を阻むように車が現れる。

再びジャンルカは、ハンドルを右に切り車を避ける。

終わることなく繰り返される時速300キロでの綱渡りだ。

ジャンルカは、巧みにハンドル、アクセル、ブレーキを操作し続ける。

口元には、この状況を楽しんでいるかのようにうっすらと笑みが浮かんでいる。

 エリックは、まったく動じた様子を見せず真っ直ぐ前を見据えている。

それどころか腕すら組み椅子に深く座っている。

その姿は、玉座に座る傲岸不遜な王のように見えた。

目の前に黒いリムジンが見えてきた。榊が乗っている車だ。

ヨコハマLUSTへと続く幹線道路へ入りようやく追いつくことができた。

ここからヨコハマLUSTは、目と鼻の先だ。

「ターゲット・ロックオン」

低い声でジャンルカが呟くと一気にアクセルを踏み込む。

「次のカーブで前に出てラインを塞ぎ止める。それでいいな?」

リムジンが曲がる際にModel・512を幅寄せしリムジンのタイヤを道路脇の縁石へと落として止める。

ジャンルカは、最小限の言葉でリムジンを止める方法を説明した。

そしてバックミラー越しに依頼人であるひよりの顔を見た。

ひよりは、こくこくと頷く。話すと舌を噛みそうなので頷くのが精一杯だった。

エリックが眼を細める。そしてシートベルトを外し助手席の窓を開ける。

一気に車内に風が吹きつけてくる。

「ふ、副課長? どちらへ?」

ひよりが舌を噛まないように注意しながら問いかける。

「敵だ」

エリックにそう言われてからひよりが前に瞳を凝らす。

リムジンの屋根に何者かがいる。蜘蛛のようにリムジンのように張り付いている。

この尋常ででない速度で走るリムジンに張り付いているとは只者ではない。

こちらとの距離が詰まれば飛び移り運転手であるジャンルカを殺すつもりなのだろう。

そこまで考えこちらは、どうするかひよりは、考える。

エリックが迎撃に向かうのが打開策としては一番だろう。

エリック自身もひよりより早くそう考え行動に移ったのだろう。

やはり後方処理課の副課長を務まるだけのことはある。

エリックの状況判断の的確さは、ひよりのそれよりも数段早く適格だ。

現場を何度も経験してきた自分より状況判断が早いとは。

いつか自分にもこんな風に堂々とした態度で状況判断を下し行動に移すことが出来るだろうか?
そう思いひよりは、尊敬のまなざしでエリックの横顔を見つめる。

「お、お気をつけて」

ひよりがまるで親と別れる子供のような表情で心配そうにエリックに言った。

ここでエリックに死なれてしまっては困ってしまう。

エリックからは、まだまだ学びたいことがあるのだ。

「無用の心配だ」

エリックは、平然とそう言うと窓からModel・512の屋根へと上った。

 叩きつけるような向かい風がエリックの全身を打つ。

エリックは、強風の中でも足に根が生えたように子揺るぎもせず立っている。

背中からすらりと音もなくエリックが刀を抜く。

リムジンの屋根に張り付いていた蜘蛛が両腕、両足をバネのように動かし跳躍する。

リムジンとModel・512の距離は、約五メートル。

足をサイバーレッグ韋駄天に変えてあるなら十分届く距離だ。

だがたとえサイバーレッグをもってしても空を飛べるわけではない。

着地点は、空中で軌道を変えない限りModel・512の屋根の上だ。

エリックは、慌てることなく刀を構え相手を待ち受ける。

蜘蛛が着地した瞬間の僅かな隙をつき男を斬り捨てる。

空中にいる蜘蛛が左手を左に向ける。

蜘蛛が左手でぐいっと何かを引く仕草を見せた

まるでロープに引かれるかのように空中で左へと蜘蛛が方向を変える。

エリックが眼を凝らす。

日の光を浴びてわずかに輝く細い糸のようなものを見つける。

蜘蛛の左手首から出ている糸の先は道路標識に絡まっている。

道路標識に絡めた糸を引き空中で方向を変えたのだ。

「まるで蜘蛛だな」

エリックに蜘蛛と呼ばれた男がニヤリと笑う。

蜘蛛は、右手首からも糸を飛ばす。

左手首から出ている糸を切り右手首の糸を引く。

再び空中で方向を変える。

エリックも即座に蜘蛛の方に向きを変える。

蜘蛛は、道路標識に張り付くとエリックに向かって跳躍する。

エリックが刀を右下段に構える。そこから振り上げて空中にいる蜘蛛を斬るのだ。

それを見て蜘蛛が右手首を向ける。細い糸が空中を駆ける。

エリックは、糸で刀を絡め取るつもりだと察し左下段に構え直す。

蜘蛛の狙いは、刀ではなかった。絡め取られたのは、エリックの右足。

「地に落ちろ。千早」

陰鬱な声でそう言うと蜘蛛が左手首から糸を放ちその糸を思いきり引く。

その反動を利用し右手首から伸びている糸も思いっきり引く。

エリックは、右足から一気に引きずられる。

そのままModel・512の屋根から引きずり落とされる。

時速300キロを越えるModel・512から硬いアスファルトに叩き付けられれば確実に死が待ち受けている。

「副課長!」

エリックの状況を見ていたひよりが慌ててシートベルトを外し窓から身を乗り出し手を伸ばす。

それで助かる状況ではないがひよりの体は、反射的に動いた。

「上出来だ。小娘」

エリックは、窓から出てきたひよりの頭を蹴る。

同時に右足に絡みついていた糸を刀で断ち切る。

そしてひよりの頭を蹴った反動を利用し跳躍しModel・512の屋根へと戻る。

頭を蹴られたひよりは、チャームポイントである広い額を思いっきりドアにぶつけた。

ごつんというドアと額のぶつかる音が響いた。

「あう〜」

ひよりは、額を痛そうに撫でながら情けない声で悲鳴を上げた。

 屋根に戻ったエリックは、蜘蛛が張り付いていた道路標識を見る。

そこに蜘蛛の姿はなかった。エリックが蜘蛛の姿を探すため周囲を見回す。

周囲にも蜘蛛の姿はない。まるで消え去ったかのようだ。

「どこに消えた?」

 ひよりは、頭を撫でながら窓枠を掴んで体を車内へと戻す。

ふとまだ昼なのに暗いことに気がつく。何かが光を遮っている。その何かとは?

答えを知るためにひよりは、上を向く。そしてその答えを知るとすぐに叫んだ。

「副課長! 上です!」

 エリックがひよりの声に反応し上を向く。

太陽を背に蜘蛛が上から降ってきた。両手には、鋭いナイフが握られている。

蜘蛛が蝶に爪を突きたてるようにエリックへと襲いかかる。

「馬鹿が」

エリックは、急速に迫ってくる蜘蛛に向かって刀を突き出す。

重力に逆らわない限り蜘蛛にこの突きを避けることはできない。

蜘蛛が右手首から糸を飛ばす。糸は、車のドアミラーに絡みつく。

蜘蛛は、右手の糸を引きエリックの突きを避けエリックの背後、Model・512のボンネット側に降り立つ。

「終わりだ。千早」

エリックの心臓めがけナイフを突き出す。

「俺を侮るな。蜘蛛が」

エリックは、身を翻すと刀で突きを弾く。蜘蛛が続けざまに左手の突きが繰り出される。

エリックが再び刀で弾く。幾度となくナイフと刀が交差する。

「我が忍法を見て死ね! 千早」

蜘蛛の背中が盛り上がる。スーツを破り新たに機械の腕が四本飛び出してきた。

その腕には、全て鋭い爪がついている。

四本の腕を広げたその姿は、まさに禍々しい蜘蛛のようだった。

六本の腕から次々と攻撃が繰り出される。

エリックは、慌てることなくその全てを刀で弾き返す。

エリックの動きが徐々に変わっていく。

刀で攻撃を弾いていた直線的な防御から受け流すような円の動きに変わった。

その瞬間、攻守が入れ替わった。

刀が円を描いていく。まるで夜空に輝く満月のように。

蜘蛛の顔に驚愕に歪む。目は、刀の描く満月に魅入られたかのように大きく開かれている。

満月を描く刀がどの太刀筋で自分に向かってくるのか読むことができないからだ。

月が欠け白刃が煌く。

刀は、蜘蛛の右肩から滑らかな曲線を描き駆け抜けた。

血が宙に舞う。舞った鮮血は、真紅の三日月を描いた。

「殺法一千一夜・三日月」

エリックは、刀にこびりついた血を振り払う。

「た、ただでは死なんぞ!」

蜘蛛が叫び屋根から後方へと飛ぶ。

前方へ飛び込み己の体をタイヤに巻き込みModel・512を止めるつもりなのだ。

「足掻くな。見苦しい」

エリックも蜘蛛を追いかけるように飛ぶ。

蜘蛛が笑う。悪魔が契約者の嘆きと苦しみをを見た時に浮かべるような笑みだ。

蜘蛛が両手首からエリックに向かって糸を飛ばす。

「貴様も一緒に来い! 千早ぁ!」

エリックの刀が円を描く。蜘蛛の糸を断ち切る。

「殺法一千一夜・宵闇」

刀の動きが影も残さず消える。まるで宵闇に隠れた月のように。

刀が現れた時、刀は、蜘蛛の首を貫いていた。蜘蛛が大量の血を吐き出す。

そのまま蜘蛛を貫いたままエリックがModel・512のボンネットに降り立つ。

そして貫かれ絶命した蜘蛛を振り払うように刀を振るう。

蜘蛛は、後方へと投げ捨てられそのまま道路に落ちた。

「このまま後ろにつけろ」

ジャンルカがエリックの言葉を聞きアクセルを踏み込む。

リムジンとModel・512の距離が一気に縮まりテール・トゥ・ノーズの体勢になる。

エリックがリムジンの屋根に飛び移る。

飛び移られたことに気がついたリムジンの運転手がハンドルを切る。

リムジンが左右に蛇行を始める。

エリックが運転手席の真上から刀を突き立てる。

刀は、リムジンの屋根を易々と貫き根元まで埋まっている。

運転手は、それでもハンドルを放していなかった。

リムジンは、更に速度を上げ激しい蛇行を繰り返す。

エリックは、刀の柄を握り蛇行に耐える。それでも体が左右に振られる。

「どうする? 前に出てリムジンを止めるか?」

ジャンルカは、慌てることなく蛇行を繰り返すリムジンから距離を取りひよりに尋ねる。

ひよりは、まだ痛む額を撫でながらエリックの状況を確認する。

エリックが危機ならば何があっても助けに行かねばならない。

「いえ。必要ありません」

「わかった。しばらく距離を取る。それでいいか」

「はい。構いません」

ひよりは、エリックを信頼している。

この程度の危機であの獅子の如き暴君に助けは必要ない。

ひよりは、そう確信していた。

 

エリックが刀を離し自分の身を道路側へと投げ出す。

屋根から体が落ちる瞬間、屋根の縁を掴み運転席側の窓を蹴りで破る。

窓を突き破った蹴りは、そのまま運転手の即頭部を直撃する。

運転手の首があらぬ方向に曲がった。

エリックは、そのまま運転席に入り込むとブレーキを踏みリムジンを止める。

その前を塞ぐようにModel・512が止まる。

Model・512の後部ドアが開きひよりが降りてきた。

エリックがリムジンの後部ドアを開け中より榊の服の襟を掴むとアスファルトに投げ捨てる。

「千早重工開発部の榊 康人ですね」

アスファルトに転がった榊にひよりが尋ねる。

榊は、怯えた眼でひよりの顔を見る。

「お、お前達は誰だ?」

「千早重工後方処理課」

ひい、と女性のような悲鳴を上げ榊が後ろに下がる。

「あのーそんなに怯えられても困るんですが。

何も取って食べようってわけじゃないんですけど」

ひよりが困ったように指で頬を掻く。

榊がその隙をついて懐から銃を抜く。

銃口の先には、ひよりの心臓がある。

「う、動くなよ。動くとこいつを撃つぞ」

榊は、周りを見回しながら震える声で言った。

銃口は、ひよりに向けられているが頼りなくゆらゆらと上下に揺れている。

「あのー、銃を撃ち慣れてない人に銃を向けられても怖くないんですけど。

これでも私、タイプDを入れてますから。

銃弾、避けることできますよ?この距離でも」

ひよりがまったく慌てることなく榊をなだめるように言った。

ひよりは、こう見えても何度も後方処理課での任務で修羅場をくぐってきた。

同じくタイプDをいれたガンマンが撃つ銃弾ならまだしも素人が撃った銃弾ならば避けることは十分に可能だ。

タイプDと呼ばれる反射神経を強化するサイバーウェアを入れたことによって銃弾が発射された瞬間に
素早く反応し避ける事ができるのだ。

素人の撃つ銃ならトリガーを引いた時点で避けることが出来るだろう。

タイプDを入れたプロのガンマンの撃つ銃弾となれば避けることは難しいだろう。

プロのガンマンは、避けにくいように様々な手段を講じて銃弾を撃つのだ。

「く、くそ。こうなったら・・・」

そう言うと榊の様子が変わった。眼が血走りこめかみのあたりに血管が浮かぶ。

ゆらゆらと揺れていた銃口がぴたりとひよりの心臓に狙いを定める。

「まさか、榊さん!」

「そうだ。今、私のIANUSには、後方処理課三班班長ミューズのデータが入っている。

ミューズの銃の腕前は当然知っているな」

ひよりは、何度かミューズの支援のため共に任務に赴いたことがある。

ミューズの銃の腕前は、まさに百発百中というほど見事なものだった。

「榊さん。あなたの研究品は、使うとあなたの人格を消失させる危険性があるのですよ。

わかっているのですか?」

「これは、その欠点を克服した完成品だ。私のIANUSにしか入ってないがね」

榊が自慢するように首筋を指で示す。

完成品を自分のIANUSにだけ入れておくというのは極めて巧妙な手段だ。

彼の研究品を入手したければイワサキは、彼を守らざるをえない。

そして千早は、完成品を手に入れたければ彼を殺すことはできない。

ひよりは、悔しそうに唇を噛む。

そして抵抗の意思がないのを示すため両手を上げる。

「千早に戻る気は、ありませんか? 榊さん。」

「イワサキの方が私の能力を高く評価してくれている。

私は、私の能力をもっとも高く評価してくれる企業に行く」

「そうですか。わかりました」

ひよりがあきらめたようにため息をつく

「わかればいい。おい!そこのカゼ。私をヨコハマまで送れ。」

ジャンルカがちらりと今回の依頼主であるひよりを見る。

 ひよりがあることに気がついた。そして仕方ないと言う風に頷いた。

ジャンルカは、ひよりが何の反応も示さないのを見てひよりが自分を引き止めるつもりがないと判断した。

後は、自分の判断だけだ。

フリーランスの人間であるジャンルカは、契約さえ全うすることが全てだ。

全うした後は、次にどんな仕事を受けるかはジャンルカの自由だ。

「俺は、高いぜ」

「構わない。金は、イワサキが出してくれる」

榊は、ひよりから狙いをつけたままゆっくりとModel・512に向かって歩きだした。

「あのー、榊さん。まだ私の話は、終わってないのですが」

ためらいがちにひよりは、離れていく榊に声をかけた。

「私に話すことはもう何もない」

榊は、歩みを止めずModel・512に近づいていく。

「すごく重要なことなんですよ。千早重工後方処理課課長補佐の権限であなたを解雇します。」

「何を言っている?」

榊がおかしなものを見るような目でひよりを見る。

「榊 康人を企業財産の私的利用と盗用で告発します。

罪の適用は、企業倫理法に依ります。よろしいですか? 副課長?」

その瞬間、榊の後ろに音もなく死に神のようにエリックが現れた。

「殺法・一千一夜、半月」

エリックの腕が榊の首に巻きつく。月を見上げるように榊の首は捻られた。



 報告書 A―101―3895号

榊 康人(千早重工製品開発部)を解雇。

解雇理由は、企業財産の私的利用及び盗用。

解雇後、榊 康人は、交通事故により死亡。

彼が私的に開発した製品及び開発中の製品については企業倫理法の企業財産所得権の適用により
千早重工が開発品を収得。

彼の製作した製品の中に倫理上問題のある製品を発見。

これを全て廃棄処分にし以後これら製品の継続研究も禁止とする。

以上をもってこの件の報告とする。

千早重工査察部 後方処理課所属 課長補佐 日向 ひより(社員NO H―0846)

認証

エリック・ウェイン(千早重工査察部 後方処理課所属 副課長 社員NO E―0581)

早川 美沙 (千早重工査察部 後方処理課所属 課長 社員NO M―0033)

 千早 雅之は、トロンに送られてきた報告書に目を通し満足げに頷いた。

そして報告書に目を通し終えると廃棄し次の報告に目を通し始めた。



 一つの仕事が終わっても企業の仕事に終わりはない。

すぐに次の仕事がやってくる。それは、ゴールの見えないマラソンのようなものだ。

ひよりは、目の回るような忙しさだった。額は、白い湿布が張られている。

額に見事なたんこぶができたためだ。

「小娘。まだ見積もりが甘い。やり直せ」

トロンの画面から顔を上げると厳しい顔つきでエリックが言った。

「これで三回目なんですけど〜。副課長〜」

ひよりが半べそになりながら答える。

「何回だろうが見積もりが甘い内は何度でもやり直させる。それだけだ」

有無も言わせぬ厳しい声だ。エリックは、トロンの画面から目を離さずそう告げた。

「あう〜、わかりました」

自分のトロンに戻ってきた見積もり書をひよりは、恨めしそうに見つめる。

そしてカタカタとトロンのキーを叩きながら見積もりの計算を直しながら思い出した。

エリックは、表の仕事も裏の仕事も有能なのだということを。

エリックが書類仕事をこなすようになり美沙とひよりだけで行っていた時よりも格段に能率が上がった。

それだけでなく僅かなミスも許されなくなりひよりは、毎日、手厳しく書類を直されることとなった。

それは、ひよりだけではないのだが。

「課長。人事部に人員補充の件を掛け合ってくれたか?」

「え、ええ。今度の人事で考慮してくれるそうよ」

「遅すぎる。今すぐにも必要だ」

「そうは、言っても。あっちだって忙しいんだし」

「それがどうした? こちらからの要求に答えるのがあちらの仕事だ。

忙しさは、怠慢の理由にならん」

美沙がため息をつく。正論なだけに反論もできない。

「わかったわ。もう一度かけ合うから。それでいい」

エリックは、頷くと再びトロンの画面に視線を戻した。

「副課長。できました。これでどうでしょう?」

ひよりは、新たにできた見積もり書をエリックのトロンに送る。

エリックが送られてきた見積もり書に素早く目を通していく。

「まあ、いいだろう。次は、これをやれ。一時間以内だ」

ひよりの出した見積もり書に及第点を出すとエリックは、すぐに次の仕事をひよりに送る。

「はい、わかりました」

疲れた声で答えるとひよりは、再び仕事へと戻っていった。

企業戦士は、戦い続ける。

それが昼の机の上であろうと一線を越えた闇の世界であろうと代わりは無い。

それが仕事なのだから。

シーン1 後方処理課 課長室の人々に戻る

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