Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン1 禁軍武術師範

マキシマム・揚は、暇を持て余していた。愛妻、揚 華月を会社に送った後、
自宅であるホワイトエリアの高級マンションで何をするでもなく時を過ごしていた。

かつてマキシマム・揚が蘭陵王と名乗っていた時は、こうも暇を持て余す事などなかった。

中華マフィアN◎VA三合会の幹部として中華街を狙うやくざやマフィアと戦い一度として
中華街に踏み込ませたことなどなかった。

このように暇を持て余すようになったのには理由がある。

昨年、北米マフィアのカーライルシンジケートのN◎VAスラム街侵攻に対して
当時、蘭陵王と名乗っていたマキシマム・揚は、慎重論を唱える長老達に対して
ただ一人、強硬論を唱えた。蘭陵王は、声高に長老達に訴えた。

「ST☆R三合会は、誰に滅ぼされたのか忘れたのか! このままでは、いずれ座して死ぬことになる。
奴等が力を持つ前に撃って出るべきだ。そうすれば道を切り開くことができる。
否!俺が切り開いてやる! 
あんた達は、ただ許可をくれればいい!」

長老達は、この言葉に首を横に振るだけだった。
だが強硬論は、蘭陵王の中華街の守護者としての名声も手伝いN◎VA三合会内を二分するほどの勢力を得た。

長老達は、この事態に対処すべく秘密裏に会合を持った。

噂では、蘭陵王の謀殺すら検討されたという。

会合が終わっってから数日後、蘭陵王は、長老達より召喚を受けた。

待っていたのは、皇帝よりの命令である詔勅だった。

(これまでの功績により禁軍武術師範に任ず。夏王朝第三代皇帝・黄 紫星)

禁軍武術師範。皇帝直轄の親衛隊である禁軍兵に武術を教える官職である。

しかし現在、禁軍は、編成されておらず更に禁軍武術師範の役割は、教練のみで禁軍兵への

指揮権はない。名ばかりで実権は、何もない名誉職である。

長老達は、中華街に大きな名声を得ている蘭陵王を殺すことによる民衆の反感を恐れ名誉職

への栄転という形で三合会から追放したのだ。しかも断れば謀反の兆し有りということで殺せるように詔勅という切り札まで待ちだしてきた。

蘭陵王は、自分が二重三重の罠にはめられたことに気がついたがすでに遅かった。

蘭陵王は、勅命を受けることを伝えると部屋より退室した。

数日後、夏王朝首都・永安に蘭陵王はやってきた。

かつて長安と呼ばれた都はかつての繁栄を取り戻しつつある。

N◎VAに居を構える蘭陵王から見れば長安は、発展途上といったところだ。

だが歴史の積み重ねが作り出す都市の風格は、蘭陵王にも重く感じられる。

蘭陵王は空港に妻の揚 華月と共に降り立つと迎えの車に乗り込んだ。

蘭陵王は、揚 華月と共に文武百官が居並ぶ宮中で皇帝に拝謁した。

そして皇帝より禁軍武術師範の地位を受け取ることとなった。

その時、文官の一人が声を上げた。

「陛下。この者は、陛下より授かってもいないのに蘭陵王という名を名乗っております。

すなわちこの者は、いずれ王の位に就くと天下に宣言しているも同然。

いずれ陛下に対し謀反を起こしますぞ。

そのような者に禁軍武術師範の地位を与えるなど虎に翼を与えるに等しいことです。

即刻この場で獄に捉え斬罪に処すべきです」

その声に文官達が声を揃えて皇帝に蘭陵王の処断を求めた。武官達は、沈黙を保っている。

揚 華月が不安そうに蘭陵王を見つめた。

蘭陵王の顔には、文官達を侮蔑するような冷笑が浮かんでいる。

蘭陵王は、立ち上がると文官達を殺気に満ちた視線で睨みつけ黙らせる。

「ならば俺は、蘭陵王の名を捨てよう。今から俺の名は、マキシマム・揚だ」

静まり返った拝謁の間でマキシマム・揚の声だけが響いた。

竜の刺繍で飾られた紫の衣に身を包んだ皇帝にして三合会の大香主である黄 紫星は、

面白そうに笑った。

「許す。今この時からそなたの名は、マキシマム・揚である」

その後、黄 紫星は、手を振り臣下達を下がらせ拝謁の間にマキシマム・揚と妻の揚 華月だけを残した。

黄 紫星は、親しげにマキシマム・揚に話しかけた。

「マキシマム・揚。禁軍武術師範になった気分は、どうだ?」

「名前の前に六文字の飾りがついただけだ」

マキシマム・揚が吐き捨てるように言い放つ。黄 紫星がマキシマム・揚の答えに大笑する。

「君ならばそう言うと思った。しばらく自由に過ごしてくれ」

「自由に過ごせとは?」

「そのままの意味だ。前のように賞金稼ぎとして活動するもいいし奥方に甘えるのも自由だ。
三合会と夏王朝に対して叛くような行動をしなければ何をしてもいい」

マキシマム・揚が黄 紫星の言葉がどういう意味を持つのか考える。

「つまり権力を全て剥奪する代わりに鎖付きの自由を与えるというわけか?」

「そういうことだ。君の行動は、私の力で容認させる。

皇帝として、そして三合会の大香主の一人として」

悪い話ではない。マキシマム・揚は、そう思った。だが一方で黄 紫星の思惑が気にかかる。

「何が目的だ?」

マキシマムの問いに黄 紫星に答える。

「君自身だ。いずれ私は、夏の民衆のために戦わねばならない。

その時に君に力を貸して欲しい」

マキシマム・揚が低い声で笑いを漏らす。

「目的は、俺の忠誠か? 俺は、ただのカタナだ。クグツじゃない。

忠誠心なんてものは、これっぽっちも持ち合わせといない」

「それは、知っている。それでも私は、君が力を貸してくれると信じている」

黄 紫星は、真摯な態度でマキシマム・揚を見つめる。

「君は、何故、中華街を守ってきたんだ?」

その言葉にマキシマム・揚が隣にいる妻の揚 華月を見る。そして過去のことを思い出す。

かつてマキシマム・揚は、鷺宮 蒔子の名でフリーランスの賞金稼ぎとしてすごしていた。

それは、両親の仇であるカーライルシンジケートの幹部を追い復讐を果たすためだった。。

賞金稼ぎとして名が売れたころ仇が新香港にいることがわかりN◎VAから新香港へ向かった。

新香港で仇を追っていた蒔子は、三合会とカーライルシンジケートの抗争に巻き込まれ

カーライルシンジケートに誘拐されていた現在の妻である揚 華月を救った。

三合会幹部の揚一族の娘を助けた者として蒔子は、揚一族の助力を得ることができた。

それだけでなく揚 華月が蒔子を自分の婚約者として認めると一族の長老に告げたのだ。

蒔子と揚 華月が結婚したのは、蒔子がN◎VAに戻り仇を討った後のことだった。

二人の年齢差を気にする声もあったが結婚する二人の幸せな様子を見て次第に小さく

なっていった。蒔子は、結婚と同時に名を蘭陵王に変え中華街のために剣を振るってきた。

それは、両親を殺されてから失っていたものを中華街で取り戻したからだ。

そして再びそれを失わないように守るためだった。

次第に中華街の人々に認められ揚一族の重鎮であるジミー・揚がN◎VAを離れる際に
ジミー・揚の組織だった三合会・吾功を引き継ぐこととなった。そして現在まで中華街のために戦ってきた。

「大切な者を守るためだ」

マキシマム・揚が妻から黄 紫星に視線を戻し答える。

「それが他の幹部と君の違うところだ。君は、大切な者を守るために自分の力を振うことをためらわない。

君は、他の幹部と違い大切な者を守るため自ら戦っている。

そして私は、君が関羽や岳飛に劣らぬ人物だと見ている」

黄 紫星は、事実を告げるように淡々と語った。

「俺を買いかぶりすぎだ」

マキシマム・揚は、謙遜したように頭を振り言った。

「そうかな。歴史の流れはどうなるかわからないものだよ」

「話は、それだけなら帰らせてもらう」

そっけなく告げるとマキシマム・揚は、立ち上がる。

この皇帝は信頼に足る人物のようだ。いやそれ以上の人物かもしれない。

それをなんと呼ぶべきか今は思い浮かばない。

まだ失ったもののがあったことにマキシマム・揚が驚く。

背を向けたおかげで誰にも動揺している表情を見られないことに胸を撫で下ろした。

マキシマム・揚は、そのまま皇帝に背を向け拝謁の間から出て行こうとする。

「自由を与えてくれたことには感謝する。いずれこの恩は返す」

皇帝に背を向けたままマキシマム・揚が言った。

「それと俺のことは、マキシマムではなくマキシと呼んでくれ。

親しい者は、俺のことをそう呼ぶ」

「わかった。マキシ。今は、自由を楽しむがいい。いずれその力を当てにさせてもらう」

マキシマム・揚は、二度と振り返らず何も答えず無言のまま拝謁の間より立ち去った。

妻の揚 華月は、皇帝に深く礼をすると立ち上がり夫を追う。

その背中に黄 紫星が声をかける。揚 華月が振り返る。

「私は、あなたの夫を悪く扱うつもりはありません。そのことだけは、お約束します。

安心してください」

黄 紫星が揚 華月を安心させるように微笑む。

「ありがとうございます。陛下。私からもよく言っておきますので

夫をお見捨てにならないようにお願いします」

揚 華月が少女らしい柔らかい微笑みをみせる。その微笑だけで心が癒されるようだった。

揚 華月は、再び優雅に礼をすると礼儀正しく拝謁の間より立ち去り夫を追いかけた。

夫は、拝謁の間を出た所で壁を背にし腕を組み待っていた。

そして揚 華月が追いつくと並んで長い廊下を進んだ。マキシマム・揚が口を開く。

「どう思う?」

「何がですか?」

揚 華月は、マキシマム・揚の顔を澄んだ瞳で見つめる。

「皇帝のこと。そして皇帝が言った俺のことだ」

「皇帝はあなたを信頼しています。そして彼が言ったことは、全て真実です」

揚 華月がマキシマム・揚の手を自分の小さな手で包む。

「だって私が一番そのことを知っています。マキシ」

そのまま手を握ったまま二人は長い廊下を歩く。

しばらくしてマキシマム・揚が照れたように言った。

「ならば皇帝の言葉に従うか。どこか二人で旅行にでも行こうか?」

「あら。もう旅行に来てるじゃない。明日から色々と観光しましょう。あなた」

「そうだな」

マキシマム・揚は、邪魔の入らない二人だけの時間があることを幸せに思った。
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