Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン15 それぞれの結末

マキシマム・揚は、全ての敵を斬り伏せ横たわっている死体の中でたたずんでいる。

体を返り血で赤く染まり大太刀も刀身のみならず柄までも赤く染まっている。

既に痛みは、消えうせ自分がどれほどの傷を負っているのかすらわからない。

肉体の戦いは、終わった。後は、心の中で囁き続ける女を倒すのみだ。

「いい加減こっちも決着をつけさせてもらう」

マキシマム・揚は、呟き心の中で大太刀を振るう。

女が素手で大太刀を受け止める。

「何?」

マキシマム・揚の心が動揺する。止めの一撃を受け止められたのだ。

「許さない。あの犬も虎も」

女が呪詛の言葉を吐き出す。女の大太刀を握る力が増していく。

大太刀の刀身が悲鳴を上げる。

「あなたの心から支配してあげる。そしてあなたの愛する者の心に乗り移ってあいつらに復讐するの。いいでしょう?」

女がおぞましい声で呪詛の言葉を吐きつづける。

大太刀の刀身が力に耐え切れず半ばから折られる。

「さあ、あなたの力の象徴を砕いてあげたわ。私に従いなさい」

女がぞっとするほど美しい笑みを見せる。

マキシマム・揚が膝を屈する。

「そうよ。それでいいの。私のものになりなさい」

女がマキシマム・揚に手を伸ばす。

その手に割り込むように白い犬と黒い犬が現れる。

女が脅えたように身を竦ませる。

マキシマム・揚が立ち上がる。その腰に砕けたはずの大太刀が現れる。

「失せろ!」

マキシマム・揚の左手の親指が大太刀を押し上げ鯉口を切る

右手で柄を握り大太刀が鞘走らせる。

飛燕の如き速度で大太刀が抜き放たれる。

女の首が刎ね飛ばされる。

そのまま大太刀を振るい女の体を十字に切り裂く。

悲鳴とともに女が姿を消す。閃光が天を目指し飛んでいく。

マキシマム・揚が大太刀を納める。

そしてしゃがむと黒い犬と白い犬の頭を撫でる。

「助かった。お前達のご主人様は、何処だ?」

犬達は、吼えると姿を消した。

マキシマム・揚が心の中の戦いを終え現実世界に意識を戻す。

犬達の吼える声がする。

マキシマム・揚が犬達の声がした方向を振り返る。

そこには、セレス・劉が立っていた。

白い犬と黒い犬は、その足元で楽しそうにじゃれあっている。

マキシマム・揚がセレス・劉の方へ歩いて行く。

「起こすのが遅れた。すまないな」

「いいえ。大丈夫です。マキシ様。来栖さんに起こしていただいたので」

セレス・劉が微笑み来栖を顎で示す。

来栖は、照れたように頭を掻いている。

「セレスを助けてくれたことに礼を言う」

マキシマム・揚が来栖に頭を下げる。セレス・劉もマキシマム・揚に従い頭を下げる。

来栖が恥かしそうに手を振る。

「たまたま上手くいっただけです。気にしないで下さい」

「まったくです。いきなり何の経験も無く還魂呪文を唱え更に成功するなど正に奇跡です。

ル・ケブレスとニルダの大いなる加護に感謝しなくてはなりません」

来栖の横にいるハースニールがあきれたように言った。

「夏王朝禁軍武術師範としてその力に報いたい」

マキシマム・揚が真摯な態度で言った。

来栖がぽりぽりと頬を掻く。

「そう言われても特に思いつかないんでいいです。気にしないで下さい」

「マスター。本当にいいんですか?」

ハースニールが横から慌てて口を挟む。

「何だよ。いいんだよ。本当に思いつかないから」

「マスター。あなたが私の記憶を全て持っているように私もあなたの記憶を全て持って

います。私見を言わせて貰えばあなたの生活は、酷く貧しい。

今がその改善のチャンスだと思います」

来栖ががっくりと肩を落とす。

「お前、はっきり言い過ぎ」

「どうする? 報酬ならばいくらか用意できるが?」

マキシマム・揚が見かねて助け舟を出す。来栖が手を振る。

「いらないです。こっちが勝手にやったことですし。

それに報酬が目当てでやったわけじゃありませんし」

「マスター!」

ハースニールが非難の声を上げる。

「いいから帰るぞ。戻れ!ハースニール」

来栖がハースニールの非難を回避するためハースニールを剣に戻す。

そのまま来栖が階段に向かって歩き出す。

「何か困ったことがあったら尋ねてこい。いいな」

マキシマム・揚が来栖の背に声をかけた。来栖が右手を上げその声に答えた。



「さっき女を倒したがあれが蘇妲己か?」

マキシマム・揚が振り返りセレス・劉に言った。セレス・劉が頷く。

「じゃあ、終わりだな。帰るか。悪いが転移はできない。歩くだけでやっとだ。それに」

マキシマム・揚が一旦言葉を切りセレス・劉に血で汚れた自分の手を見せる。

セレス・劉が不思議そうにその手を見つめる。

「俺の手は、今、血で汚れている。君に触れると君まで汚してしまう」

マキシマム・揚が自嘲的に笑い呟く。

「いえ。そのような事はありません。マキシ様」

セレス・劉が血で汚れたマキシマム・揚の手を握る。

「私は、知っています。あなたがみんなのために血を流してくれたことを」

マキシマム・揚が困ったような表情を見せセレス・劉に瞳を合わせる。

「触るなと言っただろう。セレス」

「あっ。はい。申し訳ありません」

セレス・劉が慌てて手を離そうとする。

マキシマム・揚がセレス・劉の手を力強く握る。

「まあ、いい。このまま転移する。手を離すな」

セレス・劉が真っ赤になりながら頷く。

マキシマム・揚は、体を揺らし床に踵を打ちつけた。



 仁之介が肩口に担ぎ上げるように黒竜を持ち上げる。

「五十二の奥義の一つ!北斗原爆落とし!」

そのまま担ぎ上げた黒竜の頭を斜めに床に落とす。

鈍い音とともに黒竜の頭蓋骨が砕け脳漿が周囲に飛び散る。

「おーい。姉貴。まだか? そろそろもたねえぞ!」

仁之介が瞑目している茜に呼びかける。

その言葉の通り仁之介の体は、切り傷の赤い線と打撲の青い痣、そして火傷の痛々しい赤に彩られている。
着ていたジャケットも既に原型を止めていないほどボロボロだ。

茜は、瞑目したまま無言だった。新たな黒竜が現れ咆哮を上げる。

「おいおい。何匹目だっけな。底無しかよ」

あきれたように言うと仁之介が黒竜に向かって走り出す。

黒竜が仁之介を振り払うように前肢を振るう。

仁之介が前肢を受け止め脇に挟む。

黒竜がもう一方の前肢を振るう。

仁之介がこの前肢を受け止め再び脇に挟む。

そして気合一閃。黒竜がきれいな弧を描いて投げ飛ばされる。

「五十二の奥義の一つ!南斗原爆固め!」

ごきりと鈍い音をたてて黒竜の背骨が砕ける。

黒竜がしばらく唸りもがくとそのまま動かなくなった。

茜が瞑目していた目を開く。真紅の炎が部屋中を奔る。

「仁之介。ご苦労様。これで終わりよ」

その言葉に仁之介が床に大の字になる。

「疲れた。姉貴、珍しくてこずってたな」

「私だっててこずることはあるわ。今回は、召喚陣が現実世界とアストラル界に二重に存在してるからてこずったのよ。
両方一気に解除しないといけない構造だったし」

茜が人差し指を立て仁之介に教えるように言った。

仁之介は、大の字になったまま何も答えない。

「ところであなたいい加減、あの変な技名は何とかならないの?

少しは、世間体を考えて欲しいんだけど」

「やだ。俺の血と涙と汗から完成させた技に脳をフル回転させて考えたふさわしい名前だ。

だから絶対変えない」

茜があきれたように仁之介を見つめる。

「しかも四十八の必殺技の次は、五十ニの奥義? 嘘臭いわよ」

「あと四つの覚醒奥義と三つの超必殺技と一つの秘奥義がある。すごいだろ?

いずれ時が来たら全て白房に伝授するつもりだ」

仁之介が勝ち誇ったようにVサインを見せる。

「そういえば白ちゃんが私に何か言ってたような気がするのだけどあなたは、何か聞えなかった?」

「いいや。何にも聞こえなかったぜ」

「そう。無事ならいいんだけど」

茜は、不安そうに天井を見上げた。



 白耀姫が何度揺さぶっても白房は、動かなかった。

「白房。いい加減に起きるのじゃ」

やはり白房は、動かない。目を閉じたままの姿は、眠っているようだ。

「白房・・・」

目に涙を浮かべ白耀姫がうなだれる。

大粒の涙が白房の顔に落ちる。

「いや。まだ諦めてなるものか!」

白耀姫が顔を上げ天を睨む。

「我、西海の守護者にして白虎の一族の戦姫、白耀姫が天に申し奉る。

北斗聖君、南斗聖君に申し上げたき議が有り面会を願う」

白耀姫が天に吼える。

白耀姫の目の前に白い上着を着た醜い老人と赤い上着を着た美しい若者が現れる。

「白耀姫。何用じゃ」

「碁を打っておったところだから手短に頼むぞ」

「はい。この者をお助けください」

白耀姫が白房を指し示す。

「この者は、今だ現世に生を受けて短き身なれど我が身を助け蘇妲己の討伐に協力しました。
その功績に免じ何とぞその命をお助けください」

老人と若者がお互いの顔を見合わせる。

「いかがしたものかのう」

「白耀姫。この者の名をなんと言う」

「はい。白房と申します」

それを聞き老人と若者が笑い声を上げる。白耀姫がきょとんとした顔で二人を見る。

「白房とはな。満更知らぬ者ではないようだ」

「ああ。ならば助けてやらねばならぬな」

老人が懐から帳面をだし筆で何かを書き足す。

「これでよい。その者は、もうすぐ目を覚ます」

「白耀姫。その者が起きたら仁之介に借りは返したと伝えるように言うのだ」

そう言うと老人と若者は、姿を消した。

「仁之介に? あいつがいったい何をしたのじゃ?」

白耀姫が納得いかないような表情で呟く。

白房がぴくりと足を動かす。白耀姫が慌てて白房の傍に駆け寄り呼びかける。

「白房。私がわかるか?」

(うん。おなかへった)

もぞもぞと体を動かし夢身心地で白房が呟く。

「そうか。そうか。今すぐ帰るのじゃ。そして一緒に腹一杯ご飯を食べようではないか」

白耀姫が大粒の涙をこぼしながらうれしそうに言った。
そして白房の首を母親のように甘噛みして持ち上げるとしっかりとした足取りで歩き始めた。

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