Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン14 アヤカシ〜神獣達の戦い〜

一瞬の浮遊感の後、白耀姫の足が床につく。

瞳を開ける。目の前には、豪華な彫刻が施された扉がある。

「白房。起きておるか?」

白耀姫が背中にぶら下がった白房を揺さぶる。

(はーい。起きてます。)

白房が元気な声で答える。その声に白耀姫が一瞬、心が和んだ。

「いかん。いかん。今から私は、戦いに赴くのじゃぞ。」

そのことを恥じ入るように白耀姫が首を振る。

(どうしたの?あたまでもいたいの?)

白房が白耀姫の様子に不安になったのか肩に顔を載せ白耀姫の頬を舐める。

「大丈夫じゃ。白房。ここからは、危ないから降りるがよい。」

(はーい。)

白房が白耀姫の背中を滑り降りる。

「よし!行くぞ!」

白耀姫が足を槍のように伸ばし扉を蹴り飛ばす。

蝶番が破壊され扉が吹っ飛んでいく。

「邪魔するぞ。」

(おじゃまします。)

白耀姫が堂々と歩き部屋に入る。その後をとことこと白房がついて行く。

部屋の中は、豪華絢爛な調度品で埋め尽くされていた。

どの調度品にも宝石がちりばめられその輝きで目が眩みそうだった。

「らしいといえばらしいがな。何処におる!蘇妲己!」

白耀姫が猛虎を思わせる激しい声を部屋中に響かせる。

寝台を覆う薄絹がゆれその間にからすらりとしなやかな美しい足が伸びてくる。

薄絹を更に波打たせ蘇妲己が姿を現した。

そこにいるだけで周囲の全ての物が色あせるような美しい姿に男であれば何者であっても
心を動かされるような蠱惑的な笑みを浮かべている。

「何か御用かしら?私は、招待した覚えがないのだけど。」

人の心を溶かすような甘く妖艶な声。

男であればこの声だけで心を篭絡されるだろう。

白耀姫は、不快そうに顔をしかめただけだ。

「そなたを封神しにきた。大人しくするがよい。」

「あら?あなたに封神されるほど私は、落ちぶれてないわよ。白虎ちゃん。」

蘇妲己が手に持った扇子で品よく口元を隠す。

口元を隠していても笑っているのがわかる。

「貴様にちゃんづけで呼ばれる筋合いなどないわ!」

(ちょっと。はくようき。おちついてよ!)

白耀姫が白房の声を無視し怒声と共に疾走する。

「怖いわね。私、野蛮なことは大嫌いなの。」

「ぬけぬけとよく言う!」

白耀姫が五指を虎のかぎ爪のように曲げ襲いかかる。

「縛竜索。」

蘇妲己の言葉と共に白耀姫の周囲を囲むように銀色に輝く鎖が現れる。

「なんじゃ?」

鎖は、一気に白耀姫の体を縛り自由を奪い獲る。

「たかが鎖如きで私を捕えたつもりか!」

白耀姫が鎖を引き千切ろうと力を込める。その様を蘇妲己が面白そうに見つめる。

「竜をも縛るその鎖を引き千切れるのかしら?」

「なめるな!」

引き千切ろうとする力に対抗するかのようにぎりぎりと鎖が白耀姫の体を締めつける。

締めつける力に白耀姫が苦痛のうめき声を漏らす。

(はくようき。だいじょうぶ?)

白房が鋭い爪で鎖をがしがしと引っ掻く。

それでも傷つかない鎖に白房が唸ると今度は、鎖に噛み付き鎖を思いっきり引っ張る。

鎖は、びくともしなかった。

「大丈夫じゃ。白房。離れておれ。」

白耀姫が白房を安心させるように強気な表情を見せる。

「あらあら。可愛い子犬ね。」

蘇妲己が白房を見つめ目を細める。

「貴様、白房に手を出して見ろ。ただではすまぬぞ!。」

白耀姫の怒声に蘇妲己は、きょとんとした表情になる。

そして何かに気がついたように面白そうに微笑む。

「ああ。そういうこと。この子、あなたのお気に入りってわけね。」

蘇妲己がくすくすと声を出して嘲るように笑う。

「私は、白房の保護者じゃ。勘違いするでない!」

「まだまだ子供ね。好きなら好きと正直に言えばいいのに。」

蘇妲己が鎖に噛み付いている白房を捕まえ抱きしめる。

(やだ。はなして。)

白房が蘇妲己の手から逃れようと暴れる。

「他人の大切なものを奪うってこの上なく楽しいのよね。」

蘇妲己が白耀姫に見せつけるように白くしなやかな指を白房の顎の下を伸ばし優しく

くすぐるように撫でる。しばらく白房は、暴れていたが徐々にその勢いは、弱まっていく。

そしてついに蘇妲己の指に身を委ね暴れるのを止め気持ちよさそうに目を細め

大人しくなる。

「ほら。大人しくなった。子供は、単純ね。」

蘇妲己がそのまま白房の全身を優しく撫でていく。

撫でられるたびに痺れるような気持ちよさが白房の全身を包む。

「女狐め!汚らわしい手で私の白房に触れるでない!」

白耀姫が歯軋りしながら鎖を引き千切ろうと力を込める。

白耀姫が力を込めれば込めるほど鎖は、その力を増していく。

「いい加減あきらめたら。見苦しいわよ。」

「やかましい!」

「そう。じゃあもうちょっと楽しもうかしら。」

蘇妲己が白房を床の上に下ろし白房の頭の上に手をかざす。

白房の姿が変っていく。子犬の姿から華奢な少年の姿へと変化する。

「うん。私好みの白面の美少年の完成ね。」

満足そうに微笑み蘇妲己が白房の顎に手をやり上を向かせうれしそうに呟く。

(なにがおこったの?)

白房が人間の手になった自分の手を目の前にかざし不思議そうに見つめる。

蘇妲己が白房を後ろから抱き上げ立ち上がらせる。

まだ人間の体に慣れてないのか生まれたばかりの子鹿のように白房がよろめく。

「どう?可愛いでしょ。」

蘇妲己は、白耀姫に見せつけるように白房を後ろから抱きしめる。

「白房。」

白耀姫が少年になった白房を見つめ真っ赤になる。

(ぼくどうなってるの?)

白房が助けを求めるように白耀姫を見る。

「白房。お主、人間に変えられたのじゃ。」

(えー。そんな。)

白房が驚いた声を上げる。視線を落とししげしげと人間となった自分の体を見る。

「そう君は、今、人間なのよ。白房君。」

白房の肩口から蘇妲己が顔を出す。

「色々と教えてあげるわ。全てを忘れるくらいに。」

蘇妲己が白房の耳を甘噛みする。

痛いようなくすぐったいな不思議な感覚が白房を襲う。

(やだ。やめてよ。)

白房が蘇妲己の手から逃れようと身をよじる。

「初々しい反応ね。たまらないわ。」

蘇妲己が白房を横抱きに抱き上げる。

白房が手足をばたつかせるが蘇妲己は、意に介さない。

「さあ。白房君。行きましょう。」

蘇妲己が白房を抱きかかえたまま寝台へと向かう。

烈火の咆哮が背後より轟く。

続いて鎖が床に落ちる音が響く。

蘇妲己が異変に気がつき後ろを振り返る。

そこには、全身の毛を逆立て怒りを露にしている白い猛虎がいた。

鎖は、切り裂かれバラバラに引き千切られている。

「大年増の女狐め!八つ裂きにしてくれる!」

白耀姫が風を巻き走り出す。獲物を狩る時のように無駄のない鋭い走りだ。

「本来の姿に戻れば私に勝てると思ってる?大甘よ。」

蘇妲己が手に持っていた扇子を白耀姫に向かって仰ぐ。

白耀姫の鋭い勘が危機を察知する。白耀姫が勘に従い右に飛ぶ。

凄まじい業火が白耀姫が一瞬前まで立っていた場所を駆け抜けていく。

「五火扇子か!貴様いくつ宝貝を持っておるのじゃ!」

「さて、あといくつかしら?手当たり次第持ってきたからわからないわ。」

白耀姫が唸る。接近しなければ勝負にならないが相手がどんな宝貝を持っているのかわからない内は、
迂闊に飛び込むこともできない。

「諦めて帰ったら?あなたじゃ私に適わないわ。それに。」

蘇妲己が可愛がるように白房の頬を撫でる。

白房が顔をしかめ手から逃れようともがく。

「今から白房君と楽しいことをするんだからあなたは邪魔よ。」

蘇妲己が勝ち誇ったように笑う。

その笑いに白耀姫の我慢の尾が音を立てて切れた。

天にまで届くかのような咆哮を上げ蘇妲己に向かって突進する。

「忠告してあげたのに懲りない子ね。」

蘇妲己がやれやれとあきれかえった表情を見せる。

「それじゃせめてあなたに縁がある宝貝で殺してあげるわ。」

白耀姫の進路を壁が阻む。振り返るが背後にも壁。左右にも壁。

そしてご丁寧に天井と床にまで同じ壁がある。

「囲まれたか。だがこんな壁すぐ破ってくれるわ!」

「じゃあね、白虎ちゃん。丸焼けになっちゃいなさい。」

白耀姫を囲む壁が燃え上がる。

炎は、波のように押し寄せ空間を覆い尽くす。

「玲瓏塔。毘沙門天が使った宝貝よ。

毘沙門天の使いの白虎であるあなたを葬るにはちょうどいいでしょう。

それに白虎が司るのは金。五行説に則るなら火との相性は、最悪よね」

(はくようき!へんじをして!)

白房が目に涙を浮かべながら白耀姫に語りかける。返事はない。

「唯一の欠点は、相手のもがき苦しむ様が見られないことね。」

玲瓏塔は、その名の通り塔の形をした宝貝だ。外からは、中の様子を見ることはできない。

「さて。邪魔者をいなくなったし楽しみましょう。白房君。」

蘇妲己が玲瓏塔に背を向け寝台に向かって歩き出す。

白房が身を捻り蘇妲己から逃れ床に落ちる。

立ち上がることはできない。まだ人間の体に慣れきってないのだ。

できることは、腕で上半身を支え起こすことだけ。

「あらあら。白房君まで私に逆らうの?別に痛いことしないからこっちにいらっしゃい。」

蘇妲己が白房に手を伸ばす。

白房は、その手を見向きもせず蘇妲己を涙の浮かんだ瞳で睨みつける。

「そういう表情もそそられるわね。」

蘇妲己が艶然とした表情を見せる。

「白房君。もう一回言うわ。別に痛いことしないから私の言うことを聞きなさい。」

(いやだ!)

白房がきっぱりと拒絶する。

「そう。残念ね。じゃあ、殺しちゃおうかな。」

蘇妲己がつまらなそうに呟く。

「でもそれじゃ簡単すぎて面白くないわよね。どうしようかな。」

蘇妲己がうーんと唸り考え込む。そして何かを思いついたようにぱんと手を打つ。

「白房君。ゲームをしましょう。私は、何もしないわ。白房君は、思いっきりかかってきなさい。
私を倒すことができたらあなたの勝ち。私は、白虎ちゃんを助けてあげる。

もし倒せなかったらあなたは、私のものになる。どうかしら?」

蘇妲己が負ける確率は無に等しい。

悠久ともいえる年月を生き抜いたアヤカシである蘇妲己と生まれてまだ八年しか生きていない白房では格が違いすぎる。

(いいよ。)

それでも白房は、即座に勝負を受けた。

勝ち負けの判断など考えず白耀姫を助けることしか白房は、考えなかった。

白耀姫を助けるためには選択の余地などない。勝負するしかないのだ。

「決まりね。じゃあ、白房君。かかってらっしゃい。」

蘇妲己がうれしそうに笑いおいでおいでと手招きする。

白房が頼りない足つきで立ち上がる。

そしてよたよたと蘇妲己に向かって歩き出す。

何度もつまずきながら蘇妲己に向かっていく。

蘇妲己は、鬼ごっこの鬼から逃れる子供のようにはしゃぎながら逃げる。

そのたびに白房は、頼りない足つきで蘇妲己を追いかける。

犬の姿であれば即座に追いつけるのに慣れない人間の体では俊敏な動きはまったくできない。
息を切らしながら白房が床に片膝をつく。

「降参する?白房君。」

蘇妲己が微笑みながら優しく告げる。

(やだ!まだまけてない!)

白房が駄々をこねる子供のように首を振る。

「強情なのね。でもそういうところも可愛いわ。」

白房が妖気を集中する。

犬の体と違い慣れない人間の体では妖気を集中するのに時間がかかる。

「妖気を集中して何をするつもりなのかしら?」

蘇妲己が面白そうに白房を眺める。

白房が妖気を集中し咆哮を上げるため口を開く。

子犬の白房がアヤカシを倒すことができる唯一の武器。

そしていつもアヤカシを倒してきた白房の必殺技。

だが蘇妲己は、微笑みながら脅えすら見せず立っている。

(なんで?)

白房が自分の喉を押さえる。咆哮が上げられない。

「白房君。君は今、犬じゃなくて人間なの。

人間じゃ犬の時のような咆哮を上げられないのは当然よね。

そもそも体の作りが違うもの。」

蘇妲己が扇子で口元を隠しながら白房を見下ろす。

(そんな。)

白房ががっくりとうなだれる。

唯一の武器すら失われ絶望が白房の心を支配する。

「今度こそ降参する?白房君。」

蘇妲己がうなだれている白房の顎に手をやり上を向かせる。

そしてじっと瞳を覗き込む。

「白房君。降参しなさい。そしたら思いっきり楽しいことをしてあげる。

全てを忘れるくらいに。白虎ちゃんのことなんてすぐに忘れちゃうわよ。」

蘇妲己が白房を胸に押しつけ抱きしめる。

白房が観念したように目を閉じる。その背を蘇妲己があやすように優しく撫でる。

「さあ、白房君。降参って言いなさい。それだけでもうつらいことは終わりよ。」

白房の心が負けを認めそれを伝えるためにゆっくりと口を開く。

(白・・・房。)

その時、白房の脳裏に聞きなれた声が届く。

(お主なら・・・・きっと勝てる。信じるのじゃ。)

白房が顔を上げる。心の中に小さな希望が生まれる。

「どうしたの?白房君。早く降参って言いなさい。」

(いやだ!まだまけてない!)

「あらあら。白房君。いったいどうしちゃったのかしら?」

突然の白房の豹変振りに蘇妲己が戸惑った声を上げる。

(ぼくはまけない!しろようひめがそういったから!ぼくはかつ!)

「そう。まだ白虎ちゃんは生きているの。でもどうやって勝つのかしら?」

蘇妲己が冷たく呟く。白房は、蘇妲己を睨む。

「いいわ。約束だもの。かかってきなさい。」

蘇妲己が余裕の笑みを見せる。

(いくよ。)

白房が妖気を集中し精神も集中していく。

(あかねおねえちゃん。ごめんなさい。やくそくをやぶります。)

白房が心の中で茜に謝る。

茜からやってはいけないと禁じられている術を使うのだ。

白房は、テレパシーを利用し人の心に語りかけることができる。

普段は、人に語りかける程度だが最大限に妖気と精神を集中し術を使えば
人の心の奥底まで覗き込み更に入り込むことができる。

だがまだ幼い白房の力だとそのまま人の心に囚われか帰れなくなる可能性がある。

更に人の心の奥底にある様々なものを否応無く見せつけられ白房の心が逆に壊れる可能性もある。

茜は、それを知っていたので白房にやってはいけませんと言い更に指切りで約束したのだ。

(あとではりせんぼんのむからゆるしてください。)

白房が蘇妲己の心を覗き込み入っていく。

白房が悲鳴を上げる。

見るもおぞましい様々な記憶。

黒い泥のような様々な欲望。

漆黒の闇のような暗い負の感情。

そんな心の中に入ってきた白房の姿だけが光輝いている。

亡者の如く蘇妲己の心が白房に手を伸ばしまとわりつき捕えようとする。

白房が全てを振り払い蘇妲己の心の奥底を目指す。

「やめて!それ以上進まないで!」

蘇妲己が頭を抱え悲鳴を上げる。

蘇妲己の心が白房を捕えようと猛然と襲いかかる。

白房がその手から逃れるため駆ける。

「駄目!見ないで!それ以上進まないで!」

蘇妲己が少女のようなか細い悲鳴を上げる。

白房が蘇妲己の心の奥底に辿り着く。

白房の目の前に身を寒さに震わせ小さくなっている子狐がいる。

白房が暖めるように子狐に身を寄せる。

子狐も白房に身を寄せてくる。

その間にも蘇妲己の心が二匹を押し潰そうと迫ってくる。

白房が子狐の前に出て咆哮を上げる。

ひるんだように蘇妲己の心が押し留まる。

続いて子狐が小さな声で鳴く。

蘇妲己の心が悲鳴を上げ崩れていく。

蘇妲己が床に崩れすすり泣く。

「やめて。もうやめて。」

蘇妲己の妖気が途絶え玲瓏塔が崩れ落ちる。崩れ落ちた玲瓏塔の中より白耀姫が姿を現す。

白い毛は所々焼け気品に満ちた白虎とは思えないほど無残な姿だ。

それでもしっかりとした足取りで蘇妲己の元に近づいていく。

「確かに火は我が天敵じゃ。しかし戦姫たる私は、その程度で死ぬほどやわではない。

戦姫の天命を持った私は、天命を全うするまで死なんのじゃ!」

白耀姫が猛虎の咆哮の如く力強く言い放つ。

蘇妲己が白耀姫の姿に脅えたように後ろに下がる。

「終わりじゃ。女狐。封神されるがよい!」

蘇妲己に向かって白耀姫が鋭い爪を振り下ろす。

それで終わった。だが白耀姫が怪訝な表情を見せる。

「魂が封神台に飛ばぬとはどういうことじゃ?魂ごと消滅したか?」

そして白耀姫は、気がついたように顔を上げ白房に駆け寄る。

白房は、人間の姿から子犬の姿に戻っており眠るように床に伏している。

白耀姫が白房を鼻で優しく触り体を揺さぶる。

「白房。終わったぞ。起きるのじゃ。」

白房は、ぴくりとも動かない。

「こら。悪ふざけをするでない。帰るから起きるのじゃ。」

白耀姫は、何度も白房を揺さぶる。白房は、それでも動かなかった。

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