Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン7 家族会議は踊る されど進まず

 皆川神社の居間では気まずい雰囲気が漂っていた。

昨日は、あの後、何も話されることなくお開きとなった。仁之介と茜は、皆川神社に泊まった。

白房は、何故か上機嫌の白耀姫に連れられ一緒の部屋で眠った。

そして朝、居間で再び若葉を交え朝食と昨日の話し合いの続きが行われている。

朝食は、既に終わり今、若葉が台所で食器を片付けている。

白耀姫と茜が冷たい視線を空中でぶつけ合っている。

仁之介は、とばっちりを避けるため二人に目を合わさないようにDAKのニュースをつまらなそうに見ている。

白房は、机の上に座り自分の毛を舐めて毛づくろいをしながら時々眠そうにあくびをしている。

障子が開き若葉が居間に入り上座に座る。

「さて。昨日の話し合いの続きをしましょう」

「これ以上の話し合いなど必要ない。白房は、我が一族で保護する」

即座に白耀姫が声高らかに宣言する。

「許しません! 白ちゃんは、私達の隠れ里に連れ帰ります!」

机に手をつき膝立ちになりながら茜が言い返す。

「ほほう。それでは、私が肌を許した最初の男を連れ去るとおっしゃるのか。

言っておくが私から言い寄ったのではないぞ。白房の方から私の床に忍んできたのじゃぞ」

白耀姫が意地悪い笑みを浮かべる。茜が白房を睨みつける。

「白ちゃん! 本当なの?」

茜のあまりの剣幕に白房は、びくっと震え身を小さくする。

「白房。ありのままを教えてやるがよい。あの日、私の床に自分から入ってきたことを」

(うん。ぼくじぶんからはくようきのねていたもうふにはいっていたよ)

「うそよ・・・」

へなへなと力なく茜が崩れ落ちる。だが次の瞬間、ゆっくりと立ち上がり隣で無関係を

装う仁之介の胸倉を掴む。

「仁之介・・・」

「はい。お姉さま。何でございましょう?」

仁之介は、胸倉を掴まれつつもそれでも茜と視線を合わせないように顔を茜から背ける。

「あなたは、何故、無関係を装っているの? いいのかしら?

あなたの可愛い弟が白虎一族の小娘に奪われそうなのよ。あなたも白房の兄なら」

瞳にめらめらと薄暗い情念の炎を宿し茜が仁之介の胸倉を掴む手に力を込める。

「兄なら・・・どうすべきなんでしょうか?」

ごくりと唾を飲み込みながら仁之介が問い返す。

「死んでもいいから弟を取り返すぐらいしてきなさい。それが兄の務めでしょう」

「お姉さま。目が・・・マジです」

「このまま白ちゃんを取られたまま帰ることになったらあのことをみんなに言うだけよ。いい? 

あなたに選択権はないの。あるのは今死ぬかそれとも後で死ぬかだけ。

さあ、どっちにするの?」

茜が仁之介の胸倉をぐいぐいと締め上げる。

(ねえねえ。じんのすけにいちゃん)

仁之介が白房をじろっと睨む。

その目は、明確に誰のせいでこんな目にあっていると思ってるんだと明確に語っていた。

「何だ? 白房?」

(なんでさいしょはくようきとけんかしたの?)

仁之介が白房の言葉ににやりと笑い目に何かを企んでいるような怪しい光が宿る。

「教えてやろう。お姉さま。手を離していただけませんか?」

仁之介が目で俺に名案があるから任せろと茜に訴えかける。

茜は、不承不承胸倉を掴んでいた手を離す。

服の乱れを直し仁之介が白房に手招きする。

「話してやるから近くまで来い」

(はーい)

とことこと机の半ばまでやってくると白房は、ちょこんとお座りする。

「あれは、確か・・・百年くらい前だったか?」

仁之介が顔を茜の方に向ける。

「四十三年前よ」

仁之介の言葉を茜が訂正する。若葉が信じられないものを見るような目で二人を見た。

二人ともどう見積もっても二十代後半の外見をしている。

「四十三年前、俺は、隠れ里を出て現世で武者修行していた。
ある日、北海の方に金剛石より固くて墨より真っ黒の珍しい亀がいると聞いた俺は、試し割りをしようと思って北海に向かった」

白房が興味深そうに仁之介の話に聞き入っている。

(それで、それで)

白房が目を輝かせ仁之介に話の続きを急かす。

「そしたらそこにちょうど白虎一族の白輝皇とかいう奴がいて俺が亀を割ろうとするのを邪魔しやがった。
それで白輝皇と三日三晩、戦ってこの傷をつけられたってわけよ」

仁之介が左眼の上に斜めに走っている傷跡を指差した。

「ちなみに白輝皇というのは私の父じゃ。親子二代でお主に勝った訳じゃ」

白耀姫が勝ち誇ったように言った。仁之介がその言葉を聞いて人の悪い笑みを浮かべる。

「なんじゃ? その笑いは?」

白耀姫が眉をひそめる。

「いーや。俺の勝ちだ!」

仁之介が素早く手を伸ばすと白房をひっつかむ。

「こうなりゃ力づくで連れ帰る!」

仁之介が白房の首を片手で鷲掴みにし立ち上がる。若葉と茜は、唖然とした表情になった。

「貴様っ! それでも白房の兄か!」

怒声と共に白耀姫が机の上に飛び乗り仁之介の前に立ちはだかる。

「おっと。動くな。白房がどうなってもいいのか?」

白房を白耀姫に向かって盾のように突きつけ仁之介が意地の悪い笑みを浮かべた。

人質を取った強盗のようなこの姿が仁之介には、なぜかよく似合っていた。

「くっ! 卑怯な!」

白耀姫が顔を怒りに歪める。

「卑怯で結構! 俺の命がかかってるんだ!

例え卑怯と言われようと思われようと一向に構わん!」

仁之介は、白房の兄とは思えない発言を言い放ち部屋の出口へゆっくりと近づいていく。

(じんのすけにいちゃん)

白房が鷲掴みにされたまま仁之介をつぶらな瞳で見上げる。

「何だ? 白房」

白房の問いかけに仁之介が白房の方を向く。

(じんのすけにいちゃんのばかあああああああああああああああああああああああー!)

白房は、テレパシーで仁之介の精神へ直接あらんかぎりの力を込めて言霊を叩き込んだ。

咆哮を通さずテレパシーで精神防壁を突破し直接、言霊を無防備な精神に叩き込み精神を砕く禁じ手だ。

それを忘れて思わず使ってしまうほど白房は、怒っていた。

「ぐわっ!」

両耳を抑え情けない声で悲鳴を上げ仁之介が床に倒れこみ悶絶する。

痙攣している様子から見ると仁之介の精神は、何とか砕かれずにすんだようだ。

その隙に仁之介の手を抜け出し白房は、白耀姫の傍にとことこと走っていく。

(もうじんのすけにいちゃんなんてしらない。ぼく、はくようきといっしょにここでくらすよ)

「よくぞ言った。白房」

白耀姫が白房を抱きかかえる。

「もう文句は、あるまい。白房も望んで私の保護を受けると言っておる」

「仁之介」

無言で成り行きを見守っていた茜が小さな声で冷たく言い放つ。

「隠れ里に帰ったら覚悟しておきなさい。

殺してくださいと泣き叫ぶほどの地獄を見せてあげるわ」

茜は、般若のような顔で悶絶している仁之介を冷たく見下ろす。

仁之介は、海岸に打ち上げられた魚のように全身を痙攣させている。

茜は、般若の表情から姉の表情を戻ると白房に悲しそうな声で語りかける。

「白ちゃん。そんなこと言われるとお姉ちゃん悲しいわ。こっちに戻ってらっしゃい」

その言葉に白房は、すねているのかぷいっと顔を横に向ける。

「残念ながら白房の意志は、固いようじゃな」

白耀姫が勝ち誇ったように言った。茜が沈黙する。

その時DAKのバディである子狐が現れた。

「若葉ちゃん。お客様だよ。コンコン」

「・・・画面に映してちょうだい」

疲れた声で若葉がバディに告げる。

画面に現れたのは、剣と天秤のマークが入ったNIKの鑑札を見せている冴えない姿の男、

その隣にいる青い瞳と白い肌が印象的な美しい女性。

一番後ろにいるのは、赤い髪の精悍でいながら整った顔立ちの男だ。

「NIKの探偵の来栖 優と言います。少々お尋ねしたいことがありまして参りました」

「少々お待ちください」

若葉が立ち上がる。

「お客様の前でみっともないことはしないで下さいね」

茜と白耀姫に一言釘を刺すと若葉は、居間から玄関に向かった。



「どういったご用件でしょうか?」

若葉が玄関の戸を開け来栖に尋ねる。

「ええと、白い子犬についてお尋ねしたいことがあるのですが」

「白ちゃんに? どういったご用件でしょう?」

「こちらの方がその白い子犬に用があるそうです」

来栖が赤い髪の男を指で示す。若葉が赤い髪の男を見る。

「あなたは?」

「マキシマム・揚と言う。白い子犬に用がある」

マキシマム・揚が来栖の前に出る。

「どういったご用件でしょう?」

「その白い子犬に聞きたいことがある」

マキシマム・揚の言葉に来栖が不審な顔をする。

「白ちゃんは、犬ですよ? いったいどうやって話を聞くおつもりなんですか?」

「その子犬・・・・アヤカシだそうだな」

マキシマム・揚が冷たい声で言った。若葉がうろたえた表情を見せる。

「やはりな」

「あなた、白ちゃんをどうするおつもりですか?」

「どうもしない。聞きたいことがあるだけだ」

若葉がマキシマム・揚の顔をじっと見つめた。

マキシマム・揚は、表情を変えることはなかった。

「わかりました。どうぞ」

若葉がマキシマム・揚を玄関に招き入れる。

「そちらのお二人は、どうなさいますか?」

若葉が来栖とアリーシアに尋ねる。

「僕達は、これで」

「もちろん一緒に行きます」

来栖の言葉に割り込みアリーシアが言った。来栖がアリーシアの方を向く。

「おい。アリーシア」

「優。探偵なら最後まで依頼の行方を見届けなきゃ」

アリーシアが来栖の背中をばんと叩く。来栖が咳き込む。

「では、僕達もご一緒するということでよろしいですか?」

来栖がマキシマム・揚の方を見る。

「俺は、構わん」

マキシマム・揚がそっけなく言った。

「いらっしゃるならどうそ」

「では失礼します」

来栖とアリーシアも玄関に入った。



 若葉の案内で三人は、居間に通された。

何事もなかったように白房と白耀姫、茜と悶絶していた仁之介が座っている。

若葉が上座に座る。三人が下座に座る。

「その犬に聞きたいことがある」

マキシマム・揚が白房を見ながら言った。

(ぼく、しろふさ。なにをはなせばいいの?)

白房の声が三人の脳に響いた。

マキシマム・揚は、特に表情を変えなかった。

来栖は、子犬が話すという事実を受け入れられないのか頭を抱えている。

アリーシアは、そんな来栖を心配そうに介抱している。

「俺は、白い虎を探している。行方を知らないか?」

(ここにいるよ)

白房が隣に座っている白耀姫を見る。

「私がお前が探している白い虎じゃ。西海の守護者にして白虎一族の戦姫の白耀姫じゃ」

白耀姫がマキシマム・揚の方を向く。

「して人間。私は、名乗ったぞ。私に用があるならまず名乗るがいい」

「俺は、夏王朝禁軍武術師範のマキシマム・揚。お前に聞きたいことがある」

マキシマム・揚の名乗りに白耀姫が面白そうに微笑む。

「ほほう。禁軍武術師範が私に何の用じゃ? まさか私を討伐にきたのか?」

「中華街が滅亡の危機にあるという。話によると古の魔物が復活するらしい。

そしてお前の助けがないとその魔物を倒せないらしい。その魔物の情報と助力が欲しい」

白耀姫が顎に手をやり撫でながら考え込む。

「まさか・・・あやつか?」

何かを思いついたように白耀姫が呟く。そして立ち上がる。

「ならばこうしている暇はない。急がねばならぬ」

白耀姫が玄関に向かうため部屋の出口に向う。

(ぼくもいくー)

とことこと白房が白耀姫の後ろについていく。白耀姫が振り返りそっと白房を抱き上げる。

「白房。私は、戦姫たる役目を果たしにいくのじゃ。遊びに行くのではないのじゃ」

(でもわるいアヤカシをやっつけにいくならぼくてつだうよ)

「お主が今まで何事もなく生きてこられたのは僥倖に恵まれておったからじゃ。

よい機会じゃ。故郷に戻るがよい」

白耀姫が厳しい表情で白房に言う。

(やだ! やだ! やだ! いっしょにいく! ぼくは、はくようきをまもるんだ!)

白房が抵抗するように激しく左右に尻尾を振る。

「駄目じゃ! お主は、まだ子供じゃ!故郷に帰り家族と共に平和な時を過ごすがよい!」

(やだ! はくようきは、ぼくのおよめさんでしょ! ばくもいっしょにいく!)

白耀姫が白房の頭を優しく撫でる。

「そのことは、私の戯言じゃ。忘れるがよい」

「てめぇ! どういうことだ!」

黙って話を聞いていた勢いよく立ち上がり仁之介が犬歯を剥き出しに怒鳴る。

白耀姫が仁之介の方に顔を向ける。

「白房は、私を助けるため暖めてくれただけじゃ。他に何もしておらぬ」

「じゃあ! さっき話したことも全部嘘か!」

仁之介の言葉に白耀姫が頷く。

「なら白房を返してもらおうか!」

仁之介が白房を奪い返すため右腕を白房の首に伸ばす。

(やだ! やだ! やだ!)

白房は、首を掴まれ引っ張られたが白耀姫の服に左右前足の爪を立て離れまいと抵抗する。
白耀姫が優しく白房の前足を手で包む。

「お別れじゃ。白房。短い間だったが楽しかったぞ」

白耀姫が悲しそうに微笑むとその手でゆっくりと白房の前足を服から離した。

(はくようき! いかないで!)

「さらばじゃ」

悲しげに言うと白耀姫が障子を開け部屋より出て行く。

白房が悲しみを訴えるように何度も吼える。

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