翌日。来栖は、起きると再びコンビニ行き朝食を買った。
朝食は、袋詰のコッペパン一袋とインスタントコーヒー。
半分ほど食べるとからっぽの冷蔵庫にパンをしまう。
ポケットロンを取り出し電話をかける。
相手は、ナイトワーデン。アズーリが所属している会社だ。
社長にアポイントとを取るとすぐさま出かける準備を始める。
相手に失礼がないように身なりを整える。バディに留守を頼むとリニアの駅に向かう。
ロボタクに乗るなどという発想は、来栖にはなかった。
なぜならリニアの方が運賃が安いからだ。
朝のラッシュに巻き込まれながら来栖は、ウェットシティにあるナイトワーデンにたどりついた。
自分の探偵事務所がある雑居ビルとは、比べ物にならないくらい立派なビルが目の前にある。
緊張しながらビルに入り受付で自分の名とNIKの鑑札を見せる。
照合が終わると応接室に案内される。来栖は、ソファに座り相手を待つ。
興味深そうに部屋の中を見回す。どう見ても自分の住居兼事務所より広く立派だ。
応接室の扉が開き待ち合わせ相手の男が入ってきた。
「申し訳ない。お待たせした」
威厳とたくましさを感じさせる声だった。
体は、鍛え上げられており来栖から見ても立ち振る舞いにまったく隙がない。
男が座るとソファがきしんだ音を立てた。体をかなりサイバー化しているのだろう。
「私がブロッカーです」
トーキョーN◎VAに住む者ならこの男の名を知らない者はいない。
銀の守護者と呼ばれN◎VAで五指に数えられる超一流のボディガード。
現在は、ボディガードを引退しナイトワーデンの経営に専念しているが今でも彼自身を指名してくる人物は多いという。
「来栖 優と申します。お会いできて光栄です」
握手の後すぐブロッカーが話を切り出した。
「それで。話というのは?」
来栖は、コートのポケットからアズーリとネロが映っている画像を取り出しブロッカーに差し出した。
ブロッカーは、受け取り一瞥する。
「我が社に所属しているアズーリだ」
「そうです。それで守っている対象なんですが実は、賞金首なのです」
「ボディガードを生業とするならば時としてそのような仕事を引き受けなければならないこともある」
ブロッカーは、特に表情を変えることもなく言った。
「それでいくつかお聞きしたいのですがアズーリの今回の仕事は、
ナイトワーデン経由ですか?」
「質問に答える前に君の立場について聞いておきたい。
NIKの探偵だと聞いているがどのような依頼によってアズーリを調べているのだ」
「探偵の守秘義務により依頼人のことを話す事はできません。ご了承ください。
依頼は、彼らの居場所を探すことと関係について調べることです。
恐らく依頼人は、アズーリの敵ではありません」
「その根拠は?」
即座にブロッカーが鋭く尋ねてくる。
ブロッカーの存在感に押し潰されそうになりながらも来栖は、何とか答える。
「依頼人は、アズーリのことをアズと呼びました。恐らく彼の愛称でしょう。
それにアズーリがイタリア人だとも言っていました。
つまり依頼人とアズーリは、親しい関係にあると思います。恐らく友人かそれ以上かも」
「依頼人は、女性だね。来栖君」
ブロッカーの言葉に来栖があっけにとられた表情になる。
いったいどうしてばれたのか心の中で自問自答する。
「君の言葉が教えてくれた。友人かそれ以上の関係という君の言葉でね。
それでわかった。依頼人は、恐らく私も知っている人物だ」
役者が違うとはこのことか。来栖は、そう思いながらも気を取り直す。
「それで最初の質問に戻りますが今回の彼の仕事は、ナイトワーデン経由ですか?」
「いや違う」
「彼が他に仕事を引き受ける場所は、ご存知ですか?」
「カンピオーネというレストランだ。支配人のトトがアズーリに仕事を回すことがある。
私も彼に仕事を依頼したことがある」
裏の顔を持ったレストランということか。このN◎VAでは、よくある話だ。
そう結論づけると来栖は、ブロッカーに再び問いかける。
「ブロッカーさん。アズーリと手合わせしたことはありますか?」
「何度かある」
「彼の印象は?」
「若いながら腕のしっかりしたボディガードだ。
仕事に対しての誇りと名誉も心得ている」
「そうですか」
ブロッカーの言葉に来栖は、考え込む。
ブロッカーほどの腕があれば立ち会えば相手が暗殺者の修行を受けた者かどうかわかる筈だ。
回りくどい言い方より直接聞いた方がよさそうだ。
来栖の当てにならない探偵の勘もそれが最善の方法だと告げている。
「ブロッカーさん。少々聞いていただきたいことがあるのですが」
「何かね」
「今回の依頼に関する私の推理です。アズーリは、今回暗殺者を守っている。
そして守っている暗殺者の名前がイタリア語で黒という意味です。
ちなみにアズーリの意味は、イタリア語で青という意味でした。俺は、二人が同じ組織出身なんじゃないかと疑っているんですかブロッカーさんの意見はどうで
しょうか?」
ブロッカーが苦笑する。
「それは間違っている。アズーリは、暗殺組織にいたことはない」
「彼から聞いたのですか?」
「いや。初代スクデットから聞いた。彼は、ローマ教皇領で最高のボディガードだった。
正にスクデットの名と紋章にふさわしい男だった」
「初代スクデットは、現在トーキョーN◎VAにいるのですか?」
「三年前に病で死んだよ。それ以来アズーリがスクデットの名と紋章を引き継いでいる。彼もまだ若輩ながらその名を汚すような行為は今までしていない。私が
断言する」
ブロッカーに嘘を言っている気配はない。アズーリが暗殺組織にいたのでないとするとネロを守る理由はいったいどこにあるのだろうか? まったくわからな
い。
探偵の勘もまったく働かない。お手上げだった。
「行き詰まっているようだな」
考え込んでいる来栖にブロッカーが声をかけてくる。
「ええ。お手上げです。アズーリとネロの接点や暗殺者を守ることが名誉に反さない理由がまったく思いつきません。
恐らくアズーリの過去に何かあるような気がしますがブロッカーさんは、何かご存知ないですか?」
「私もあまり詳しくは聞いてない。だが彼の過去を知っていると思われる人物は知っている」
来栖は、ブロッカーの言葉に一筋の事件の突破口を見つけ出す。
「その人を紹介してもらえますか?」
「わかった。こちらからも協力してもらえるように話しておこう。
さっき話したレストラン・カンピオーネの支配人だ」
「ありがとうございます」
来栖は、礼を言うと立ち上がる。部屋から出る寸前にブロッカーが声をかけてくる。
「トトが依頼人の女性もご一緒にどうぞとトトが言っている。
カンピオーネに行く前に依頼人にも連絡をいれておきたまえ」
IANUSで即座に連絡を取ったのだろう。
その便利さをうらやましく思いながら来栖は、答える。
「わかりました。どうもありがとうございます」
「君の仕事の成功を祈っている」
「はい。ありがとうございます」
来栖は、ナイトワーデンから出ると依頼人に連絡を取りカンピオーネの前で落ち合う約束をする。
リニア駅に向かいながらあることに気がつき呟く。
「俺の今回の仕事料・・・ブロッカーさんの仕事料の三時間分だ・・・」
ブロッカーが現役の頃は、一時間一シルバーという高額な報酬で依頼人を守ったという。
故にブロッカーは、銀の守護者と呼ばれるようになった。
役者の違いに完璧にうちのめされながらも来栖は、リニア駅に急いだ。
いずれ貧乏生活から脱出する日も来ると自分を励ましながら。
それがいつの日になるかは、誰にもわからなかった。
来栖は、依頼人の女性をレストラン・カンピオーネの前で待っていた。
なんとなく落ち着かない気分だ。高級そうなレストランの前で冴えない姿の自分がいる。
貧富の差を痛感させられ逃げ出したくなる。
十分待って店の前に止まったロボタクから叢雲が出てきた。
「すいません。お待たせしました」
今日は、髪を下ろしたままだが相変わらず高級そうな黒のスーツを身にまとっている。
この高級住宅街によく似合った姿だ。
冴えない姿の来栖が隣に立つとお姫様と付き従う従者の誕生だ。
「じゃあ行きましょう」
来栖が仕事でなくては縁がなさそうな高級レストランの扉をくぐった。
歩いていたウェイターを捕まえ名前を告げNIKの鑑札を見せ支配人を呼んでもらう。
しばらくしてレストランの奥にある支配人室より初老の落ち着いた雰囲気の男が出てきた。
「私がこのレストランの支配人のトトです。来栖様ですな。
ブロッカー様よりお話は聞いております。お嬢様もご一緒にどうぞこちらへ」
そのまま奥に案内される。店の奥には、個人商談用の個室があった。
恐らく盗聴とハッキングの対策が完璧に施されているのだろう。
来栖と叢雲は、席に座る。トトが口を開く。
「話を始める前に何かお飲み物をお持ちしましょう。何かご注文はございますか?」
「トトに任せるよ。でもアルコール以外で」
叢雲が慣れた様子ですぐに答える。
「・・・水」
来栖が悩み抜き出した注文がこれだった。
何を注文しても財布の中身が一瞬で空になりそうな気がして仕方ない。
水なら恐らく大丈夫だろうというのが来栖の出した結論だった。
「来栖様。今回は、料金の心配はございません。私からのサービスでございます」
来栖の考えを見抜いたようにトトがそっと耳打ちしてくれた。
「・・・任せます。アルコール以外で」
来栖は、泣きながらやけ酒を飲みたい気分になったが自重した。
貧乏な生活に慣れてしまった自分が今は無性に悲しかった。
「かしこまりました」
トトが一礼し一旦部屋から出る。しばらくして銀盆の上に飲み物を置きトトが戻ってきた。
「来栖様には、グレープフルーツジュースを。お嬢様にはオレンジジュースをお持ちしました」
来栖と叢雲の前にグラスが置かれる。来栖は、とりあえず喉を潤す。
叢雲は、飲まずに話が始まるのを待っている。
「さて。それでは何からお話したらよろしいでしょうか?」
叢雲が来栖の方を見る。視線に気がつき来栖は、ストローから口を離す。
咳払いを一つしてから話を切り出す。
「俺は、叢雲さんの依頼でアズーリとネロの関係について調べました。
今のところ彼らには、仕事以外で関係を見出すことができない。
普通ならそれでもおかしくない。しかし一つだけひっかかることがある。
アズーリがスクデットと呼ばれる称号と名を持っており名誉を重んじると言う。
我々の感覚だと名誉を重んじる人物が暗殺者を守ると思えない」
叢雲も頷く。彼女も同じ疑問を抱いて来栖に依頼したのだ。
「俺の探偵の勘だと恐らくアズーリの過去にこの疑問を解決する鍵があると思います。
それでアズーリさんの過去を知っていると思われるあなたに行き着いたわけで」
「なるほど。事情は、わかりました」
トトが頷く。
「しかしまだそれでは私の口からお話することはできません」
「そんな・・・」
叢雲が思わず非難の声を上げる。
「よろしいですか。来栖様。
あなたが言っておられることは最初にお嬢様が私に尋ねたこととさほど変わりません。
プロとして仕事料を貰い仕事をしておられるならばプロとしての結果をださねばなりません。
あなたは、色々と調べあげ私までたどり着いたようですがまだプロとしての仕事は果たしておりません。
お分かりになりますか?」
来栖が頷く。その様子を見てトトが話を続ける。
「あなたが果たさなければならない仕事とは、情報から推理し真実を探すこと。
今回の仕事の場合は、今までの情報から私から情報を引き出す鍵を探すことです」
「でもそれがわからないからトトの所に聞きにきたんだ。お願い。教えて」
叢雲がトトに頼み込む。
「お嬢様。私も彼がプロとして仕事を果たしているならば話そうと思っておりました。
しかし彼は、まだプロとして仕事を果たしていない。私は、アマチュアと話すつもりはございません。
私にもカンピオーネ達に仕事を斡旋するプロとしての果たさなければならない仕事と責任がございます」
「十分だけ時間をくれ」
来栖が口を開いた。そこには冴えない姿の青年ではなく探偵としての来栖がいた。
「十分であなたから情報を聞き出す鍵を探し出す」
「いいでしょう。十分だけ待ちましょう」
トトが頷く。来栖が組んだ手の上に顎を置く。推理する時の来栖の癖だ。
時間が刻々と過ぎて行く
。もうすぐ十分になるというその時、来栖のポケットロンが鳴った。
アルファ=オメガからの追加情報だ。即座にデータを開く。
(アズーリの過去・・・過去のデータが抹消されており調査できず。)
(初代スクデット・・・経歴:ローマ教皇領で五指に数えられる超一流のボディガード。
コーザ・ノストラの評議会からスクデットの名と紋章を与えられ名誉のために自由に行動することを許された唯一の人物。
名誉のために時に無料で縁もゆかりもない子供を守り時に名誉を汚した人物に制裁を加えたといわれる。
五年前に起ったバレージ・ファミリーのドン・ロベルト・バレージの反乱により評議会が解散してからは引退する。
現在は、弟子であったアズーリがスクデットの名と紋章を引き継いでいる。三年前、病によりこの世を去る。)
来栖が追加情報を頭に叩き込み今までの情報と総合し推理を完成させる。
「探偵さん。十分経ったよ」
叢雲が来栖に告げる。来栖が顎を上げ話し出す。手は、組んだままだ。
「アズーリのあだ名のスクデットは、コーザ・ノストラの評議会から与えられた名誉のために自由に行動してよいという特権です。
そして今、彼は、イタリアマフィアの暗殺者養成機関グランデ・ロッソの暗殺者を護衛している。
彼は、恐らくこのスクデットという名を受け継いだ者としてネロを守っている。
そしてここで問題になってくるのはすでに彼に特権を与えたコーザ・ノストラの評議会は、解散している。
つまりスクデットの名は、すでに何も力を持たない。
だが彼は、その名のために仕事をしている」
来栖は、一旦言葉を切りグレープフルーツジュースで喉を潤す。そして言葉を続ける。
「アズーリは、スクデットの名を受け継いだ者としてロベルト・バレージに制裁を加えるつもりなのでしょう。
初代スクデットにも名誉を汚した者に制裁を加えたという記述がありました。制裁を加える理由は、四つ。
一つ目は、評議会に反乱を起こしたこと。これについては特に説明は要らないでしょう。
二つ目にカーライルシンジケートに加入したこと。
恐らく評議会は、カーライルシンジケートに加わることに反対したはずです。
そうでなければ反乱は、起こらない。
三つ目は、シンボリ・デ・ロッソという暗殺者を作り出す機関を持っていること。
これは、アズーリがそこから逃げ出してきたネロを守っているからというのが根拠です。
シンボリ・デ・ロッソという機関は、一般人から見ても非人道的過ぎますし名誉ある行いをしているようにも見えない。
制裁の理由としては十分だと思います。
四つ目は、恐らく個人的な理由です」
「なぜ個人的理由があると思われるのです」
今まで無言で来栖の話を聞いていたトトが初めて口を挟んだ。
「なぜスクデットがいながらロベルト・バレージの反乱が成功し評議会が解散に負い込まれたのか?
彼は、ロベルト・バレージの反乱の時に評議会にいなかったと考えた方が自然です。
そして反乱を成功させてしまったことにより初代スクデットは、引退しアズーリがスクデットの名を引き継いだ。
そして初代が果たせなかったロベルト・バレージに制裁を加えるため今回の仕事を引き受けた。
というのが俺の推理ですが違いますか?」
「ギリギリ合格点といったところです。来栖様」
トトが微笑む。
「・・・ギリギリ合格点ですか」
それを聞いて来栖は、疲れたように机に突っ伏す。
「それでトト。話してくれるの?」
今まで黙っていた叢雲が口を開く。
「お話いたしましょう。なぜアズーリが今回の仕事を引き受けたのかを。
それにはまずアズーリの過去からお話しなければなりません」
教皇領・ローマ。ここでアズーリは、コーザ・ノストラ、バレージ・ファミリーのドン・ニコラ・バレージの次男として生まれた。
そのころのコーザ・ノストラは、数々のファミリーを評議会がまとめあげ小さな衝突は、あるものの平穏だった。
成長しアズーリは、自分の歩む道を決める決断に迫られた。
組織に入るか組織に縁がない普通の生活を送るかという決断だ。
アズーリは、どちらでもない道を選んだ。スクデットに師事し彼の後を継ぐという選択だ。
アズーリには、守りたい物がありそして守りたい者達がいた。
スクデットもアズーリに自分と同じファンタジスタとしての才能があることを見抜きアズーリを後継者とするため
アズーリを鍛え上げた。
アズーリの兄ロベルト・バレージが父の跡を継ぎファミリーのドンとなり評議会に反乱を起こした。
そして反乱は、成功し評議会を制圧するとロベルトは、即座に解散させた。
その時、アズーリは、スクデットの名と紋章を受け継ぐため最後の試練を受ける為ローマから離れていた。
ローマに戻ってきた時には全てが終わっていた。
アズーリの守りたい物も守りたい者達も失われていた。
「アズのお兄さんが反乱を起こしてアズの守りたい全てを奪った・・・。どうして?
兄弟だったんでしょ?」
「ロベルト様とアズーリとでは、見ている物と求めている物が違ったということです。
お嬢様」
トトが叢雲をなだめる様に言った。
「それでアズーリが今回の仕事を受けた理由は、兄貴の組織が相手だからか?」
来栖が横から口を挟む。
「それもございます。もう一つの理由は、スクデットが無実の人間の依頼を拒むことは絶対にないということです」
「無実? 確かネロは、サイコに認定されて賞金をかけられているから無実とは言えないんじゃないか?」
来栖の言葉に叢雲が頷く。
「来栖様。探偵としては、真実を探すため全てに疑うべきです。
ネロに賞金をかけているのは実体のないペーパーカンパニーです。
そしてこのペーパーカンパニーを作ったのは、バレージ・ファミリーなのです」
「何っ?」
来栖が驚きの声を上げる。。
「どういうこと?」
叢雲がトトの言葉の意味がわからず不思議そうな顔をする。
「さあ、来栖様。探偵としてお嬢様に説明してください。これもプロの探偵の仕事です」
トトの言葉を受けて来栖が口を開く。
「つまり簡単に言うと自分の部下に自分で賞金をかけているということだ」
「なるほど。でも何でそんなことしてるの?」
来栖が再び組んだ手の上に顎を載せる。
「バレージ・ファミリーには、ネロを確実に殺さなければならない理由があるから。
そう考えるのが普通だな」
「その理由は?」
すぐさま叢雲が来栖に問いかける。
「ちょっと待ってくれ。考えるから」
来栖が頭を抱えて机に突っ伏す。
「亀みたい・・・」
叢雲の言葉は、頭を引っ込めた来栖の姿を正確に表現していた。
考えがまとまったのか来栖がようやく頭を出す。
「ネロは、暗殺者養成機関のシンボリ・デ・ロッソの暗殺者だ。
ネロは、恐らくシンボリ・デ・ロッソから脱走してきた。そしてアズーリに助けを求めた。
バレージ・ファミリーは、シンボリ・デ・ロッソの秘密が暴かれるのを恐れた。
だからネロにサイコとして賞金をかけた。
サイコなら何を言っても警察は、取り合わないしすぐに処理するだろうからな。
更に賞金をかけて賞金稼ぎからも狙われるようにした」
来栖の言葉に叢雲が暗い表情になる。
自分は、まんまとその思惑に乗せられてネロを狙ったのを思い出したのだ。
トトは、アズは気にしない筈だと言ったがどうなんだろう?
アズに会ったらきちんとあやまっておこうと叢雲は、思った。
「アズがどうして依頼を受けたのかはわかったけどアズは、いったい何処にいるの?」
叢雲の疑問に来栖が困った表情で答える。
「現在調査中」
「つまりわからないってことだね」
「そうとも言う」
叢雲がため息をつく。
「二人の場所ならわかっております。お嬢様」
トトの言葉に叢雲が飛びつく。
「いったい何処にいるの?」
「昨夜遅くにスクデットから連絡がありました。二人ともブラックハウンド基地にいるそうです」
「それ捕まったんじゃねぇか?」
「トト教えてくれてありがとう! 探偵さん行こう!」
トトの言葉を聞くと叢雲は、立ち上がった。来栖の言葉は、聞こえなかったみたいだ。
「行くって何処に?」
「ブラックハウンド基地。二人に会いに」
「行ってどうするんだよ」
「二人の無実を証明して釈放してもらうの」
来栖があっけにとられる。そんなこと本当にできると思っているのだろうか。
「探偵さんの推理を聞いてもらえばきっと上手くいくよ。早く行こう」
叢雲が来栖の服を引っ張り急かす。来栖も仕方なく立ち上がる。
「じゃあトト。行ってきます」
「行ってらっしゃいませ。お嬢様」
トトが一礼して二人を見送る。来栖が去り際にトトに尋ねる。
「トトさん。こんなに裏の情報に詳しいなんてあんた何者だ?」
トトは、微笑み答えた。
「私は、このレストラン・カンピオーネのただの支配人です。昔も今もバレージ家に仕える執事という仕事は、変わりませんが」
「なるほどね」
そのまま叢雲に引っ張られ来栖は、個室から出て行く。
叢雲が個室を出てから急に立ち止まる。来栖が叢雲の背中にぶつかる。
「探偵さん。先に行ってロボタク止めといて。ちょっとトトに頼みたいことがあったんだ」
「わかった」
叢雲は、個室へ引き返していった。来栖は、レストランから出るとロボタクを見つけ片手を上げ店の前に止める。
しばらくして叢雲がレストランから出てきた。
ロボタクに乗り込むと行き先を告げた。
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