Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン9 ここに集う

あかりは、仮眠室から出ると身なりを整えて取調室へ向かう。

途中の自販機でブラックコーヒーを買いまだ残る眠気をコーヒーの味で吹き飛ばす。

昨日遅くに鳳翔が捕えた犯人を捕えたおかげで鑑識の仕事を勤務時間外にやるはめになってしまった。
おかげで昨夜は、徹夜だった。

更に鳳翔が犯人の精神鑑定を課長に要請したおかげで朝早くからあかりが犯人の精神鑑定を行った。
精神鑑定の結果を課長に提出し犯人の取り調べを鳳翔に任せ仮眠室で仮眠を取ったのが三時間前だった。

「捕まえるならこっちの都合を考えて欲しいわ。まったく」

まったくこちらの言うことを聞いてくれない鳳翔の文句が思わず出る。

飲み終えたコーヒーの缶をゴミ箱に投げ捨てる。そのまま取調室へ向かう。

鳳翔は、今も取調室で犯人の取調べをしているはずだ。

あかりは、取調室の扉にブラックハウンドの鑑札を差し込む。

扉が開きあかりは、取調室に入る。扉が閉まり自動的に鍵が掛かる。

「・・・何してるんですか? 鳳翔巡査」

あかりの目の前に目を疑うような光景が展開されていた。

「昼飯と休憩」

鳳翔は、食堂の出前で注文したと思われるカツ丼を食べながら犯人の少年とチェスで遊んでいた。
すでに二杯目らしく空のどんぶりが横に置いてあった。

少年の横には、同じく食堂の出前で注文したと思われるサンドイッチが置いてあった。

精神鑑定でサイコでないと判定されたとはいえどこの世界に犯人と昼食を食べながら

チェスで遊ぶ警官がいるというのか? あかりは、目の前の光景を振り払うように頭を振った。

「チェックメイト」

少年がナイトの駒を動かし宣言する。それからサンドイッチに手を伸ばし食べ始める。

「待ったできねぇか?」

「おじさん。もう待った無しってさっき言ったよ」

鳳翔が少年の言葉に黙り込む。あかりの目から見ても鳳翔が負けているのがわかる。

鳳翔は、チェスでも猪突猛進がモットーのようだ。駒のほとんどが敵陣に突っ込んでいっている。
鳳翔は、キングの駒を動かしとりあえずナイトから逃げる。

あかりは、気を取り直し鳳翔に尋ねる。

「鳳巡査!取り調べはどうなったんですか?」

「したよ。殺してねぇってさ」

鳳翔は、気楽な口調で言うと再びカツ丼を食べ始めた。

「鳳翔巡査。それだけですか?」

「それだけ」

「真面目に取調べしたんですか?」

「いや。してない」

鳳翔の言葉にあかりががっくりと肩を落とした。

徹夜の疲れが肩に重くのしかかったように感じる。

「俺のやり方で取調べするには、この年齢だとちょっと可哀想かなと思ってな。

だからお嬢ちゃんを待ってた。今回は、お嬢ちゃんの方が適任そうだ」

鳳翔の言葉にあかりが意外そうな表情をする。この男も少しは、考えることもあるらしい。

「ちなみに鳳翔巡査。あなたは、今までどんなやり方で取り調べをしていたんですか?」

何となく興味をそそられあかりが何気ない口調で尋ねた。

「まず犯人を殴る。次に殴る。更に殴る。また殴る。話すかどうか聞く。

話さないようなら再び殴る。最後は、銃口を突きつけて話すかどうか聞く。
だいたいの奴は、これで話すな。これでも話さない奴は、無実の奴か特殊な訓練を受けた奴だ」

鳳翔は、言い終わった後再びカツ丼を食べ始める。

あかりが犯罪者を見るような目で鳳翔を見る。

鳳翔は、気にすることなくカツ丼を食べ続ける。

「ニューヨーク市警でもそのやり方でやってたんですか?」

「最初の一回だけな」

「それ以降は?」

「取り調べさせてもらえなくなった。相棒が全部取り調べするようになった」

「当然です」

「というわけで今回は、お嬢ちゃんに取り調べを任す。俺は、後ろで見てる」

カツ丼を食べ終わり鳳翔が席から立ち上がる。

「おじさん。チャックメイト」

少年がルークを動かし告げる。

「休憩終わり。取り調べだ」

鳳翔は、そう言うとチェス盤を片付け始めた。

「ずるい」

少年が非難の声を上げる。

「鳳翔巡査。子供みたいな行為は、控えてください。もう大人でしょう」

あかりが子供を叱る母親のように言った。

「お嬢ちゃん。早く取り調べしろ。見ててやるから」

チェス盤を片付け右手で持つと鳳翔は、扉の方が下がると壁によりかかった。

あかりが変わって椅子に座る。あかりは、気を引き締め取り調べに入る。

「それでは、取り調べを開始します。私は、ブラックハウンド機動捜査課のあかり・クライファート巡査です」

「ネロです。本当の名前は、わかりません」

あかりの自己紹介にネロも素直に自己紹介する。

「本当の名前がわからないというはどういうこと?」

「記憶を消されたんです。今の組織に連れてこられた時に」

ネロは、特に感情を見せることもなく語る。

「そう。この画像を見てちょうだい」

あかりは、タップを操作しネロが殺しを行っている場面を見せる。

「ここで人を殺しているのは、あなた?」

「違います。僕は、まだ誰も殺してません」

ネロの言葉に嘘は、感じない。

それにあかりは、ネロが持っていたナイフを調べたが血液反応は、出なかった。

現場周辺からも凶器は、未だに発見されてない。

「組織について聞かせてちょうだい。その組織は、いったいどんなところなの?」

「僕みたいな子供がたくさんいました。僕の他にもネロって呼ばれている子がたくさんいました。他にロッソとビアンコって呼ばれている子達もいました」

あかりがIANUSでロッソとビアンコという単語を検索する。検索結果がでる。

ビアンコは、イタリア語で白。ロッソは、イタリア語で赤。ネロは、イタリア語で黒だ。

「何故あなたは、そこから逃げてきたの?」

「僕は、失敗作なんだそうです。マエストロそう言うのを聞きました。

それで逃げてきました」

あかりは、再びIANUSで検索。マエストロは、イタリア語で指揮官もしくは、指揮者の意味だ。

「失敗作は、どうなる運命なの?」

「一緒に訓練を受けていた子に殺されます」

「でも君は、逃げてきた。どうやって逃げ出してきたの?」

「同じ訓練を受けていた子に僕が失敗作だということを話しました。
そしたら処刑の日に戦いながら打ち合わせをして撃たれて死んだように見せかけ隙をついて逃げ出しました」

「そしてボディガードに連絡を取った。連絡先は、どうやって知ったの?」

「スクデットの名は、訓練時代にもよく噂になっていました。僕達の仕事を妨害する人として有名でした。
それにロッソがよく話していました。ローマ教皇領で最強のボディガードの弟子だってことも知っていました」

「彼に何を依頼したの?」

「僕を守ってくれるように依頼しました」

あかりの観察眼は、ネロの表情がわずかに動いたのを見逃さなかった。

あかりには、それが何を表しているかすぐにわかった。ネロは、何かを隠している。

「何かまだ依頼した筈よ」

あかりの言葉にネロは、表情を固くする。

「何を隠しているの? それは、私達に聞かれてまずいことなの?」

ネロは、沈黙を守っている。

「別にいいじゃねぇか。何を隠していたってよ」

「鳳翔巡査! 後ろから余計なことを言わないで下さい!」

取り調べに水を差されてあかりが鳳翔の方を振り返る。

「俺にとって重要なのは、そのくそったれな組織の場所だ。親玉もどうせそこにいるんだろ?
こいつからその組織の場所を聞いて制圧して全員逮捕すれば事件は、解決だ」

「どうしてそんなに物事をそんなに単純に考えるんですか? この子の殺人の容疑は、どうするんですか?」。

「制圧して全員逮捕してからまとめて面倒みればいいじゃねぇか。

一人ずつ取り調べなんて面倒だ。どうせ制圧する時に何人かは、抵抗してきて数が減るからこっちのやり方が効率的だ」

「効率的かもしれませんが非人道的です。平和的に血を流さない方法で事件を解決するという意識は、もってないんですか」

「あのなぁ非人道的な組織に平和的な方法で立ち向かおうとするのがおかしいんだ。

こういう組織は、たとえ血が流れようがとっとと潰したほうが結局流れる血が少なくなるんだ」

「極論です。これだから昔のブラックハウンドのやり方から離れられない人とコンビなんか組みたくなかったんです」

ネロのことを忘れたかのように鳳翔とあかりは、口喧嘩を始める。

ネロは、どうしていいかわからず視線を二人の間に行き来させおろおろするばかりだった。

「あなた達いいかげんにしなさい!」

いつの間にか取調室にやってきた冴子が二人を叱りつける。

二人とも気まずそうに口を閉ざす。

「あなた達は、喧嘩ばかりしていったいどういうつもりなの? しかも取り調べの最中に口喧嘩をするなんて前代未聞だわ」

冴子の言葉にも鳳翔は、反省する態度をまったく見せず対してあかりは、恥ずかしさと反省から体を小さくしていた。

「鳳翔巡査とあかり巡査。このことは、事件解決後二人で話し合った上で始末書を出すこと。いいですね」

「へいへい」

鳳翔がまったく反省してない態度で答える。

「了解しました」

あかりの方は、真面目に答え敬礼を返す。

「で、課長。何しにきたんですか? まさかわざわざ俺達を叱りにだけきたわけじゃないんでしょう?」

「いいえ。あなた達を叱りに来ただけよ」

冴子が毅然とした態度で言い切った。鳳翔とあかりは、どう反応していいかわからず固まっている。

冴子が咳払いを一つし口を開く。

「冗談です。今回の事件に関して情報提供者が来たから知らせに来たの」

「わかりました。こちらに連れてきてください。話を聞きます」

「わかったわ。それじゃ頑張ってね」

冴子は、そう言うと取調室から去っていった。

取調室から冴子が出て行くと鳳翔がぽつりと呟いた。

「笑えねぇ」

「その感想には、同意します」

鳳翔とあかりは、初めて意見を一致させた。

「僕の取り調べは、どうなったの?」

完全に蚊帳の外に追いやられたネロが呟いた。

どうやら二人ともネロのことを忘れているようだ。

 取調室に情報提供者の冴えない青年とお嬢様と呼ぶのがふさわしいスーツ姿の女性が入ってきた。

「いったいどういう取り合わせだ? お姫様と下僕か?」

鳳翔が二人を見て即座に疑問の声を上げる。

「鳳翔巡査。口を慎んでください」

あかりも鳳翔と同じ疑問を抱いたが立場上鳳翔をたしなめた。

「探偵とその依頼人です。俺は、来栖 優と言います。

調査が必要な時は、是非ウチに依頼して下さい。お願いします」

来栖は、NIKの鑑札を見せながらついでに宣伝も行う。

これで警察から依頼が来るようになればしめたものだ。

「ボクは、叢雲 空。賞金稼ぎです」

叢雲も来栖にならってバウンティハンターの鑑札を見せる。

「探偵に賞金稼ぎ? やっぱり妙な取り合わせだな」

「鳳翔巡査。お願いですから口を慎んでください。あと自分の思ったことを即座に口にだすのもやめてください。
少しは、歯に衣を着せることを覚えてください」

あかりが鳳翔を疲れた口調でたしなめる。

情報提供者の機嫌を損ねるようなことを言って情報がもらえなくなったらどうするつもりなのだろうか。

この単細胞は、そこまで考えているのだろうか?

あかりは、そう思ったが次にさらにいやな想像を思いついた。

この単細胞のことだ。そうなったらきっと殴って情報を引き出すに違いない。

この二人とは、自分が話した方がよさそうだ。ブラックハウンドの評判を守るためにも。

「鳳翔巡査。別室でこの二人から情報を聞きますので彼の相手をよろしくお願いします」

「なんじゃそりゃ。俺も聞くぞ」

鳳翔が眉をしかえ不満そうに言った。

「取り調べは、一旦休憩します。休憩時間は、鳳翔巡査の受け持ちです」

「いつ決まったんだ? それは?」

「さっき彼とチェスで遊んでいた時に私が決めました」

鳳翔は、反論が思い浮かばなかったのかしぶしぶ椅子に座るとチェス盤を机に置くと駒を並べ始めた。

ネロも駒を並べ始める。

「それでは、別室でお話を伺います。よろしいですか?」

「ええ。構いません」

「ボクもいいよ」

あかりは、取調室を出て二人を別室に案内した。



 別室で来栖があかりに事件の情報を話終わるとあかりは、考え込んだ。

来栖が話した情報は、あかりにとっては、にわかに信じがたい情報だった。

「わかりました。情報の提供ありがとうございます」

あかりは、立ち上がり情報の裏づけを取る為に部屋から立ち去ろうとした。

その時に叢雲が立ち去ろうとしたあかりに声をかけた。

「あの、いいですか?」

「何でしょう?」

あかりが足を止め振り返る。

「アズにええと、年を守っていたボディガードに会いたいんですが」

「わかりました。彼は、病室にいます。こちらの方で面会許可を出しておきます」

「病室? アズ、怪我したんですか?」

叢雲が不安そうな表情をする。あかりは、事務的な口調で答える。

「左腕を何針か縫っただけで命に別状は、ありません」

それを聞き叢雲は、ほっと胸を撫で下ろす。

「他に用件が無ければこれで私は、失礼します」

そう言うとあかりは、足早に部屋から出て行った。



「探偵さん。早く病室に行こう」

叢雲も足早に部屋から出る。後から来栖がついていく。

病室の前につくと叢雲がDAKに名前を告げ扉を開けてもらう。

扉が開きベッドで寝ているアズーリの姿が見える。左腕に包帯を巻いているが元気そうだ。

いつもは、ミラーシェードに隠れている瞳が今日は露になっている。

その名にふさわしい青い瞳に叢雲の姿が映る。

叢雲を見つけてもアズーリに特に驚いた様子はなかった。

「君か」

「アズ!」

叢雲がアズーリの元に駆け寄る。

「怪我は、大丈夫?」

「大したことはない。左腕にグレネードの破片が刺さっただけだ。他は、全部かすり傷だ」

アズーリが叢雲を安心させるように言った。叢雲がためらいがちに口を開く。

「あのね・・・ボク・・・アズにあやまんなきゃいけないことがあるんだ」

アズーリは、無言で叢雲を見つめている。

「ボク・・・アズの守っている人を撃っちゃったんだ。それで・・ごめん」

最後の方は、こみ上げてきた感情のせいで上手く言葉にならなかった。

「気にする必要はない。トーキョーN◎VAで仕事をしていればそんなこともある」

アズーリは、叢雲に優しく言うと泣き出しそうな叢雲の頭を優しく撫でてやる。

叢雲は、我慢できなくなったのかアズーリの胸に飛び込むと声をあげて泣き始めた。

アズーリは、叢雲を抱きとめ泣き止むまで待った。

しばらくして落ち着いたのか叢雲が顔を上げる。

「今度からは、ボクにどんな仕事を受けたのか教えて。もう二度とこんなことやだよ」

「それは、無理だ。すまない」

「なんで?」

アズーリの答えが期待したものと違ったので叢雲は、即座に問い返した。

「君がもし俺をボディガードとして雇ったとする。俺がもし第三者に君のことを話したら君は、俺の事をボディガードとして絶対の信頼を置くことができる か?」

叢雲が首を横に振る。

「そういうことだ」

「うん・・・。わかった」

叢雲がしぶしぶといった口調で引き下がる。

「ところで外で待っているのは、誰だ?」

「えっ」

アズーリにそう言われ叢雲は、DAKの画面を見る。

そこには、部屋の外で扉によりかかり気まずそうな表情で立っている来栖の姿があった。

「えっと・・・私が雇った探偵さん」

来栖の様子を見て叢雲が真っ赤になる。いったいどこから見られていたのだろうか。

「入ってもらったらどうだ。俺は、構わない」

「うん。そうする」

叢雲は、DAKに呼びかけ扉を開ける。来栖が部屋の中に入ってくる。

「探偵の来栖さん。アズとネロの事調べてもらったの」

「来栖です。よろしく」

「アズーリだ。それで俺と依頼人の事を何処まで調べたんだ? だいたいの察しは、つくが」

来栖がアズーリ今まで調べたことを語った。最後に次の言葉を付け加えた。

「わからなかったのは、あなたの本名くらいですかね。

他は、だいたい推理と足で稼いだ情報とトトさんから聞いた話でわかりました」

来栖が語り終わった後全てを聞いたアズーリは、苦笑し呟く。

「そういうことか」

「アズ?」

その様子を不思議そうに叢雲が見つめる。アズーリは、すぐに表情を戻した。

「アズ。とりあえず依頼終わったんだよね。一緒に帰ろうよ」

「いいや。まだだ」

叢雲の言葉をアズーリが否定する。

「そうは、言っても警察が俺の調べた情報の裏を取って彼が無罪だとわかればあなたに彼を守る理由は、なくなるのでは?」

「そうなれば依頼は、確かに完了する」

来栖の言葉にアズーリが答える。そしてゆっくりと言葉を続ける。

「だがもう一つの依頼は、まだ終わってない」



全ての情報に裏づけを取り取調室から戻ってきたあかりに気づかず鳳翔とネロは、

チェスに熱中していた。

「チェックメイト」

「またかよ」

どうやらまた鳳翔は、負けているらしい。

「鳳翔巡査。ただいま戻りました」

「おう。わかりやすいように俺に説明してくれ」

チェス盤から目を離さずに鳳翔は、言った。

「簡単に言うと彼が犯人である可能性は、極めて少なくなりました。

あと彼は、組織より狙われる立場にあります」

「あっそ」

あかりの説明に鳳翔の反応は、それだけだった。

鳳翔は、キングを手に取り前のマスへ逃がす。

「あの二人は何処に言った?」

「ボディガードに会いに行きました。賞金稼ぎの女性が希望したので。

面会許可は、私が出しました」

ネロがポーンを一歩前に出す。鳳翔は、腕を組みながら言った。

「で。お嬢ちゃんは、これからどうすんだ?」

「彼とボディガードをまず重要参考人として拘留します。

そして事件の情報が集まりしだい犯人の検挙に向かいます」

「遅えよ」

鳳翔が不機嫌な口調で返す。あかりは、何の事かわからずとまどい聞き返す。

「遅いとは?」

「そのやり方じゃ犯人どもは、逃げちまうぜ」

「では鳳翔巡査は、他にどんなやり方があるというんですか?」

あかりがむっとなって言い返す。

今までの鳳翔ならここから口喧嘩に発展するが今回は、違った。

鳳翔は、チェス盤を睨んだままあかりの方を見ようともせずに答える。

「こいつにおとりになってもらう。こいつを殺しにきた奴をとっ捕まえる。

そして組織とやらのことを吐かせて潰しに行く。

上手くいけばこいつを殺しにくる場所に親玉がでてくるかもしれん。

そうなりゃもうけもんだ」

「そんな非人道的な・・・」

「僕やるよ」

あかりが非難の声を上げかけた時ネロが言った。

「じゃ決まりだ」

「鳳翔巡査! せめて課長の許可を取らないと」

「そんなもん知るか!」

鳳翔が今までの鬱憤を晴らすかのように怒鳴る。

「独断専行と命令違反と服務規程違反になります。課長との約束を破るつもりですか!」

「破るよ。よく考えたら破ったって今は、別に親父にばれねぇじゃねぇか。

課長が親父に告げ口しない限り安心だ」

こんな時に限って悪知恵が働く鳳翔の頭脳を恨みながらあかりは、突っ走ろうとする鳳翔を必死に止める。

「おじさん。僕からも条件があるんだけど」

ネロが鳳翔を見上げながら言った。

「司法取引ってわけか。いいぜ。なんでも許可してやる」

鳳翔が子供におもちゃを買い与える父親のように気軽に言った。

「鳳翔巡査! 越権行為です! 課長に今すぐ報告します!」

鳳翔が立ち上がりあかりの方に向き直る。

「そりゃ困る」

そう言いつつも鳳翔の表情は、まったく困っているように見えない。

「そう思っているなら考え直してください!」

あかりが怒ったようなきつい声で言った。

「一つだけ聞きたいんだがお前何で警官やってるんだ」

「い、いきなりなんですか?」

鳳翔の突然の質問にあかりは、戸惑う。

「俺は、犯罪が嫌いだ。だから犯罪を全部ぶっ潰すために警官になった。お前は、どうなんだ?」

「私は・・・」

鳳翔の単純な信念の前にあかりは、言い返す言葉を捜す。

自分にも信念がある。だがすぐに言葉にならない。
あかりには、たとえ自分の信念を言葉にしたとしても鳳翔の単純な言葉の前に霞んでしまうような気がした。

あかりがそう思うほど鳳翔の言葉は、揺るがない自信と誇りが込められていた。

「すぐに答えられねぇようじゃまだまだお前は、お嬢ちゃんだ。悪いが行かせてもらうぜ」

鳳翔が取調室からすたすたと出て行く。ネロも後について出て行く。

取調室の机の上には、チェス盤だけが残っていた。

あかりの目には、なぜかチェス盤がぼやけて見えた。

 鳳翔は、ネロを連れてブラックハウンド基地の長い廊下を歩いている。

何人かがその様子を不思議そうに見ながら横を通り過ぎるが鳳翔は、気にせず堂々とネロを横に連れて歩く。

「で、お前の条件は?」

「まずスクデットに会わせて」

「すくでっと? 誰だそりゃ?」

鳳翔が頭の上に?印を浮かべて腕を組み考え込む。

「ボディガード。おじさんが昨日殴ろうとした人」

「わかった。病室にいるはずだ」

鳳翔は、そう言うと病室に向かう進路を取る。

しばらく歩くと病室の前にたどり着く。

鳳翔は、DAKに扉を開けるように告げ中に入る。

中には、事件の夜に出合ったボディガードと先ほど取調室にやってきた探偵と賞金稼ぎがいた。
鳳翔とネロは、ボディガードが寝ているベッドに近づく。

ボディガードの左腕には、包帯が巻かれていた。

「邪魔するぜ」

「取調べか?」

「いいや。こいつがお前に会わせろっていうから連れてきた」

鳳翔がネロを後ろから手で前に押し出す。

「なるほど」

アズーリが頷く。既に何の用件なのか分かっているようだ。

「で、次の条件は?」

「スクデットから聞いて」

鳳翔がネロにうながされてアズーリの方を見る。アズーリが口を開く。

「俺の依頼人とどういう話をしたんだ?」

「こいつがおとりになる。こいつを狙って襲ってきた奴を俺が捕まえて組織を潰す」

「なるほど。それならば俺も協力しよう。それに俺には、もう一つ果たさなければならない依頼がある」

「もう一つの依頼?」

「話す前に確認したいことがある」

アズーリが叢雲と来栖の方を見る。

「君達は、どうする? 協力するかどうかだ。協力するとなると組織を敵に回すことになる」

「ボクは、アズに協力するよ」

叢雲が即座に言った。

「じゃ、私は、遠慮するということで失礼します」

来栖は、そそくさと退散しようとする。その後ろ姿に叢雲が声をかける。

「探偵さん。まだ危険手当分の仕事はしてないとボク思うんだけど」

来栖が足を止める。叢雲が軽い口調で脅すように言葉を続ける。

「ボクNIKに言いつけちゃおうかな。依頼どおりに仕事してくれない探偵がいますって」

そんなことを言われると来栖に待ち受けるのはさらなる貧乏だ。

来栖は、ぎこちない足取りでぎくしゃくとアズーリの元に戻ってくる。

「・・・協力させていただきます」

来栖は、苦渋に満ちた声で協力を申し出た。

二人の意志を確認したところでアズーリが話始めた。

「もう一つの依頼というは、ネロの相棒を組織から助け出すことだ」

「相棒ってお前を殺しに来る奴らの中にいるんだよな」

ネロが鳳翔の言葉に頷く。

「僕は、彼女に助けてもらったんだ。今度は、僕が彼女を助ける番だ」

ネロが決意に満ちた表情で言った。

「アズ。もう一つの依頼ってこのこと?」

叢雲の言葉にアズーリが頷く。

「そうだ。今まで襲ってきた敵の中にはいなかった」

「じゃあ、とっとと組織の場所教えろ。そこに行けばいやでもでてくるだろ」

「どうするつもり?」

鳳翔の提案に叢雲が尋ねる。

「乗り込んでぶっ潰す。これだけいれば勝てるだろ」

鳳翔が堂々と作戦らしきものを口にした。

「あのう、俺も数の中に含まれてるんですか?」

来栖が控えめに手を上げて尋ねる。

「当然だ。探偵ならなんか特技を持ってるだろ。

実は、元特殊工作員とかなぜか格闘達人とかなぜか射撃の達人とかなぜか変装の達人とか。で、どれが当てはまるんだ?」

「どれもあてはまりません。しがない三流探偵です」

鳳翔の上げた特技の一つでも持っていれば貧乏生活などしていないと思う来栖だった。

「じゃ、おとりか盾だな」

鳳翔の中では、来栖の役割は決まったようだ。

おとりはともかく盾の意味がわからない来栖だったが尋ねる気にはならなかった。

聞くときっと不幸になるに違いない。

「俺に一つ作戦がある。聞いてくれるか」

今まで黙っていたアズーリが口を開いた。全員がアズーリの言葉に聞き入る。

「それでいいんじゃねぇか。他にいい作戦もなさそうだ」

アズーリの作戦を聞き終わり即座に鳳翔が言った。

「ボクもアズの作戦に賛成」

叢雲もアズーリの作戦に賛成する。

「僕もいいよ。彼女を助けられるなら」

ネロにも異存はないようだ。

「まぁ・・・何とかなると思いますよ。

しがない三流探偵には、荷が重過ぎるような気がしますが」

来栖もしぶしぶといった口調で賛成する。

今回の作戦では、一番危ない役割なのだからそれも仕方ないだろう。

「では、準備に入ろう」

アズーリがそう言うとベッドから降りる。

「きっと上手くいくよね」

叢雲がアズーリを見つめて言った。

「ああ」

アズーリは、軽く頷き言葉を続ける。

「後は、運命に抗うだけだ」


シーン8 三流探偵 推理の時間にもどる

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