Hi’z 5 Errand〜はいず 5 えらんど〜

トーキョーN◎VA-The-Detonation

小説

シーン12 Order Of Kight〜騎士の使命〜

セレス・劉と白耀姫がビルの廊下を走っている。

一階は、抵抗もなく拍子抜けするほどすんなりと突破できた。

ビルの中は、無計画な建設のせいで迷宮のように入り組んでいる。

二階にもまだ抵抗はない。
このまま階段さえ見つければ三階に行けるかと二人が思い始めたころ二人の前に立ちはだかる人影が現れた。

そこには、血に濡れたような赤い瞳と雪のような白い肌を持った女性が手を後ろ手に組み退屈そうに立っていた。

「確かあの時、探偵と一緒にいた女じゃな。何の用じゃ?」

白耀姫が今にも掴みかからん剣幕で尋ねる。

その様子にアリーシアがくすりと笑う。

「あなた達を殺しに来たの」

「よくぞ言った。その度胸だけは、誉めてやろう」

白耀姫が両手を虎の顎のように組み合わせ構える。

セレス・劉もいつでも喉天犬を呼べるように剣指を結んだ。

「相手は、私じゃないの。私は、あなた達のように野蛮じゃないの」

アリーシアがぱちんと指を鳴らす。

アリーシアの背後の風景が歪み黒い穴が開く。

そこから禍々しい異形の姿の者がゆっくりと現れる。

外見は、人間。それもぞっとするほど美しい顔の男だ。

手に赤い炎の鞭を持ち暗緑色のローブに身を包み同じ色のターバンを頭に巻いている。

ターバンから水牛のようにねじれた角がでている。

それは、王の冠のようにも見えた。

そして現れると同時に妖気が吹雪のようにセレス・劉と白耀姫を凍えさせる。

「そなた、いったい何者じゃ?」

男の色の無い唇が嘲りの形のに歪む。

「そいつの名は、アークデーモン。最高ランクの悪魔だ」

後ろから届いた声に白耀姫とセレス・劉が後ろを振り返る。

そこには、純白の服に身を包んだ来栖が立っていた。

昔から着ていたかのようにその服は、来栖に似合っていた。

「よう」

気安く手を上げ来栖がアリーシアに挨拶する。

「あら、優。来たの?」

不満げに唇を尖らしアリーシアがつまらなそうに呟く。

「ああ、騎士の使命を果たしにきた」

「私を殺すの?」

アリーシアがすがるような眼差しを来栖に向ける。

来栖は、目を閉じその眼差しを無視する。

「来い。ハースニール」

来栖が不機嫌な声で呟く。

呼びかけに答えるように腰に飾りつきの鞘に納められた剣が現れる。

「そろそろ正体を見せろよ。不愉快だ」

ハースニールの柄のダイアモンドが光り輝く。

白い閃光がアリーシアの纏っている魔力の衣を剥ぎ取る。

閃光が唐突に止む。そこに立っていたのは、アリーシアではなかった。

瞳の色と肌の色は、まったく一緒だが顔立ちは、まったく違う。

「あーあ、妲己様にかけてもらった変身の術が解けちゃった」

腕を頭の後ろに組みつまらなそうに呟く。

「で、お前は、何処の何様だ?」

「私? 私は、クリスティア・キヴ。アリーシアの友達って言えばわかりやすいかな」

クリスティアが自分を指差しながら答える。

「敵討ちってわけか」

来栖が納得したように呟く。

「敵討ち? あなた、まさか私と同格の存在のつもり? 害虫を駆除しにきたのよ」

クリスティアが腰に手を当てるとあきれたような表情を作る。

「アリーシアが本当は、あなたを駆除する予定だったのに逆にやられたって聞いたから
どんな害虫かと思ってわざわざ潰しに来て上げたの。
ただ潰すだけじゃ妲己様も面白くないし私も面白くないからからちょっとからかってみただけよ。
拍子抜けするほどあっけなく引っかかるから退屈しのぎにもならなかったけど」

クリスティアが畳み掛けるように一気に言うと来栖を馬鹿にしたように笑う。

「探偵? どうした?」

来栖の様子に白耀姫が心配そうに声をかける。

来栖は、頭痛をこらえるように手で額を抑えている。

「いや、心配しないでくれ。ちょっと自分の存在を見失いかけただけだ」

ようやく額から手を離し来栖がアークデーモンとクリスティアを睨みつける。

「とりあえずお前達の相手は、俺がしてやる」

「はぁ? 何言ってるの? あなた如き相手にしている暇はないの。とっとと消えて」

クリスティアが魔力を込め真紅の眼差しで来栖を射抜く。

常人ならば一瞬で発狂してしまうほど魔力が込められた視線だ。

来栖が負けることなく真紅の眼光を跳ね返す。

クリスティアの表情が屈辱に歪む。

「ということでこの二人の相手は、俺がするからお二人さんは、どっかに行ってくれ」

来栖が白耀姫とセレス・劉の前に出る。

「その申し出は、大変ありがたいのじゃがお主、勝てるのか?」

「そうです。ここは、三人で戦った方が賢明です」

白耀姫とセレス・劉がかなり不安そうに来栖に尋ねる。

「こういう別世界から来た連中の相手は、慣れている」

来栖がハースニールを抜く。光り輝く白金の刀身が姿を現す。

「それにこいつ等の相手をするのが俺の役目らしい。ま、やってみるさ」

そう言うと同時に来栖が横薙ぎにハースニールを振る。

「空刃!」

クリスティアが叫ぶと慌てて上空に飛びカマイタチから逃れる。

アークデーモンは、微動だにしない。

カマイタチは、アークデーモンの手前で消滅する。

「さすがアークデーモン。魔法障壁は、完璧か」

来栖が感心したようにうんうんと頷く。

「真面目な話、これからど派手にやるから早く行ってくれ。巻き込まれるぞ」

来栖が剣を青眼に構え後ろの二人に真剣な口調で言った。

「わかった」

「白耀姫様!?」

納得したように頷く白耀姫に対しセレス・劉が意外そうな声を上げた。

「奴らは、探偵にとって因縁深き相手のようじゃ。探偵は、どうやら我等に手を出して

欲しくないようじゃ」

「そういうことだ。とっとと行ってくれ」

来栖がアークデーモンとクリスティアに向かって突っ込んで行く。

セレス・劉が納得したように頷くと二人は、その場を離れた。

ハースニールが唸りをあげクリスティアに襲いかかる。

ハースニールが幾重にも張られた魔力障壁を紙のように切り裂く。

クリスティアが慌てて身を霧に変えハースニールの魔の手から逃れる。

横から炎の鞭が来栖に向かって飛ぶ。

「今の俺は、恐いくらいに冴えてるぜ」

来栖は、余裕の笑みを浮かべ鞭の軌道を読みハースニールで鞭を断ち切る。

「そのようね。害虫のくせに生意気よ」

クリスティアが歌うように呪文の詠唱を始める。

呪文の詠唱に気がつき来栖がクリスティアに斬りかかる。

それより早くクリスティアが歌い終わる。

来栖の周りの空気が凍り始め渦巻き始める。

絶対零度の竜巻が来栖を包み込む。

次の瞬間、竜巻が真っ二つに引き裂かれた。

来栖がハースニールを振り下ろした姿で現れる。

そのまま来栖は、凍りついたように動かなかった。

歯だけが別の生き物のようにがちがちと打ち鳴らされている。

クリスティアがその間に距離を取る。

続いてアークデーモンが重く暗い声で呪文の詠唱を始める。

来栖が何の呪文が詠唱されているのか気がつき叫ぶ。

「爆炎呪文!? 正気かよ。広範囲破壊呪文じゃねぇか!」

呪文の完成によって起こる呪文風が来栖の方に吹きつけてくる。

そしてそのまま凄まじい熱波と爆風が来栖に叩きつけられた。

それだけに留まらず熱波と爆風は、ビルの二階フロア全てを蹂躙する。

真紅の閃光と全てを砕くかのような轟音が辺りを包む。

「やっぱり害虫は、焼き払うに限るわね」

クリスティアが腕を組み微笑を浮かべる。

真紅の閃光と轟音が消え去り辺りに静寂が戻る。

クリスティアの瞳が大きく見開かれる。

そこには、灰も残らず消え去っているはずの者がいた。

身を屈めハースニールを床に突き刺している来栖だ。そしてゆっくりと立ち上がる。

ローズ・ガーブに守られていない手や顔に切り傷があるがどれもかすり傷だ。

不思議なことに火傷は、負っていない。

ローズ・ガーブは、虹色に輝いていたが徐々に純白に戻りつつあった。

「ふう。死ぬかと思った」

来栖がハースニールを構え安心したように一息つく。

「なぜ、生きてるの? 爆炎呪文を食らった筈なのに」

「答えは、単純。爆炎呪文食らってないからだ」

「爆炎呪文の熱波と爆風は、どんな魔法障壁でも防ぐことはできないはずよ」

「その通り。言い方をかえれば魔法障壁を使わなくても熱波と爆風さえ防げばいいわけだ」

クリスティアが来栖の言葉の意味がわからず苛立った表情を見せる。

「どういうことよ」

「ハースニールで真空の壁を作り出して熱波と爆風を遮断したんだ。お手軽で簡単だろ」

来栖が手品の種を明かすような口調で言った。

「言ったろ。今の俺は、冴えてるって」

クリスティアが悔しそうに唇を噛む。

そして再び歌うように呪文の詠唱を開始する。

アークデーモンも重く暗い声で呪文の詠唱を始める。

来栖がアークデーモンに向かって駆ける。

ローズ・ガーブによって最大限に引き出された身体能力によりあっという間にアークデーモンを
ハースニールの間合いに入れる。
ローズ・ガーブによって鋭敏になった視覚がアークデーモンの生気の出発点と終着点を探り当てる。

そこは、破壊されれば免れない死を与えるといわれる致命点と呼ばれる場所だ。

来栖が致命点に向かってハースニールを突き出す。
ハースニールが自分の意志を持つかのように滑らかに動き出し魔法障壁を抉り軽々と胸の真ん中を貫く。

「ハースニール!」

来栖の声に答えるようにダイアモンドが閃光を放つ。

閃光が白金の刀身からアークデーモンの内部へと向かっていく。

「おまけだ。釣りはいらねぇ」

来栖が自分の気をハースニールの刀身に流す。

アークデーモンが目を大きく見開き断末魔の叫びを上げる。

白い閃光と来栖の気がアークデーモンの体を内部から破壊していく。

そして内部を破壊し尽くし光が体の外に溢れ出す。断末魔が一層大きく響きわたる。

光がアークデーモンの体を覆い尽くしついに断末魔が途切れる。

アークデーモンが塵も残さず消滅する。

クリスティアがその間に歌い終わり呪文が完成する。

何も起こることなく来栖がゆっくりとクリスティアに向かいゆっくりと歩を進める。

突然、来栖が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。

来栖がハースニールにすがりつくように身を起こす。

来栖の顔は、青ざめ生気が感じられず喘ぐように呼吸している。

「いい様ね」

クリスティアが来栖の苦しむ様を見てうれしそうに笑う。

「何の・・・呪文を・・・唱えた・・・」

来栖が喘ぎながら途切れ途切れに言った。

「死減呪文。生命力の流れを逆転させて対象の生命力を死の寸前まで奪い取る呪文よ。

おかげでこっちは、喉を潤せたわ」

クリスティアがにっこりと微笑む。

「害虫はやっぱり自分の手で叩き潰すのが一番確実な方法よね」

クリスティアが右手をかざすと爪が剣のように伸びる。

そして脅すように踵を鳴らしながら来栖に近づく。

膝をつき喘いでいる来栖の前に立つとその喉に爪を当てる。

「何か言い残すことある? ここまでてこずらせてくれたご褒美に聞いてあげるわよ」

クリスティアが勝利を確信したように余裕の笑みを浮かべ来栖を嬲るように言った。

来栖が俯き喘ぎながら小さな声で呟く。

「せっかく聞いてあげるんだから聞こえるように大きな声で言ってくれない?」

「アリーシアに会ったら伝えてくれ。運命の輪が再び俺とお前を巡り合わせてくれる

待っていると来栖が言ってたってな」

「何それ? まるで私が今から死ぬみたいな言い草じゃない」

クリスティアが不機嫌そうに言い眉をひそめる。

「ああ、今からお前は、死ぬんだ」

来栖が無駄の無い滑らかな動きで立ち上がると逆袈裟にクリスティアを斬る。

そのまま流れるような動きで袈裟懸けにクリスティアを斬る。

その太刀筋によってクリスティアの体には、Xの字が刻まれたようだった。

クリスティアががっくりと両膝をつく。

「な・・んで」

信じられないものを見るかのように目を見開きクリスティアが自分の体から溢れる血を手で抑える。
両手があっという間に血で赤く染まっていく。

「俺が何を着ているかわかっていればあんたも不用意な真似をしなかったはずだ」

「それは・・・まさかローズ・ガーブ!」

クリスティアが来栖の服を見て驚いたように叫ぶ。

口の端から鮮血が流れる。

「そう。ローズ・ガーブの効果は、二つ。装着者の身体能力強化と傷の回復能力。
死滅呪文を食らった後、回復能力で生命力を補った」

クリスティアが何かを言おうとしたが咳き込み鮮血が口から溢れる。

「ゆっくりとあんたが近づいてくれて助かったが動けるようになるまでまだ時間が

必要だった。そのためわざと最初に小さな声で言ったのさ。時間稼ぎするために」

「騎士・・・め」

それだけ言うとクリスティアが自分の流した血でできた鮮血の池に崩れ落ちていく。

来栖が疲れたように呟く。

「最初に言ったろ。騎士の使命を果たしにきたって」

来栖がしゃがみクリスティアの見開いたままの目を手で閉じてやる。

無念そうなクリスティアの表情に来栖の脳裏に恋人の最後が思い浮かぶ。

脳裏に浮かんだ思い出を振り払うように頭を振り来栖は、そのまま体を引きずるように歩き出した。

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シーン13 それぞれの戦い〜誰かのために〜に進む

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